研究課題/領域番号 |
16K07036
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
渡我部 昭哉 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (40290910)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マーモセット / AAV / 神経解剖学 / トレーサー / マッピング / コネクトーム |
研究実績の概要 |
本研究では、マーモセット前頭皮質のモジュール構造の解明を目的とする。手法としては、前頭皮質へのトレーサー注入と、網羅的画像解析をシステマティックに行うことで、違う個体のデータを統合的に理解する方法を目指すとともに、複数トレーサーを同一個体に注入する手法を組み合わせることを考えている。本年度は、背外側前頭皮質である、46, 8aV, 8aD, 9, 8bなどの領野にAAVトレーサーを注入し、2光子連続トモグラフィーによる網羅的画像取得を行った。装置の特性から、一個体につき、実質上一種類の蛍光しか観察できない。しかし、無蛍光のBDA (biotynilated dextran amine)を注入し、回収切片を組織染色することで、2重染色ができる系を確立した。現在、この系を使って背外側前頭皮質と頭頂皮質間の緊密な結合関係を調べているところである。また、2光子連続トモグラフィーで完全に分離はできないものの、シアンのmTFP1、赤のtdTomatoと、3色で標識するAAVトレーサーの系は確立したので、切片回収後の解析により、隣接部位の同一個体での比較実験は、原理的に可能になった。イオントフォレシスによる層特異的注入も、成功率はまだ低いが何例か成功した。その結果から、層特異的な投射パターンを示唆する結果を得た。経路特異的感染実験による詳細な解剖マッピングも検討しているが、これについては、皮質―線条体経路の標識を試み、2重感染そのものには成功したが、高効率の感染結果は得られなかった。全体としては、基礎技術の確立は、順調に進んでおり、今後本格的なデータ取得を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた実験のうち、隣接領域の多色蛍光トレーサー注入実験は、2光子連続トモグラフィーと両立する形で行う目処が立った。3Dマップ作成は、共同研究者とともに、標準脳へのレジストレーション法などを検討中である。層特異的なトレーサー注入は、原理的には可能だが、成功率が低いので、今後の最適化が必要である。経路特異的標識法は、感染効率の低さからまだあまりうまくいっていないが、低レベルの発現ではあるが、2重感染そのものは成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本計画は、その性質上、多数の注入例をこなすことが必要であり、今年度に確立された技術を使って、特に背外側前頭皮質への注入を続けていく。霊長類におけるトレーサー実験は、定性的でN=1の実験になりがちだが、注入実験は、個体差や注入差が入る余地が大いにあるので、本研究のアプローチは重要だと考えている。前頭皮質に焦点を絞った高密度マッピングにより推測される結合ルールを解析することで、前頭皮質だけではなく、霊長類皮質一般のルールが明らかにできるのではないかと期待している。複数個体の比較実験を検証するための、同一個体の隣接部位への注入実験も重要であり、データ統合から得られる予想を元に、精力的に行っていきたい。注入サンプルの解析については、領野のアノテーション方法などが、まだ確立していないが、神経解剖学者との協議を重ねて、今後向上を目指していく。経路特異的感染実験については、現状では、効率が低いため現実的ではないが、逆行性AAVの利用など、新しいツールを使って効率を上げる工夫をしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ解析用のワークステーションを購入予定だったが、まだ現段階ではより高性能なコンピューターを必要とする解析を行わなかったので、購入しなかったため。そのかわり、より精度の高い注入を行うために、マニピュレーターを購入した。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度はデータ解析の進行が期待できるので、ワークステーションの購入を予定している。
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