研究課題
本研究では、マーモセット前頭皮質のモジュール構造の解明を目的とする。手法としては、前頭皮質へのトレーサー注入と、網羅的画像解析をシステマティックに行うことで、違う個体のデータを統合的に理解する方法を目指すとともに、複数トレーサーを同一個体に注入する手法を組み合わせることを考えている。本年度は、背外側前頭皮質である、46, 8aV, 8aD, 9, 8bなどの領野に加え、内側、眼窩前頭皮質に相当する、A32, A47などにもAAVトレーサーを注入し、2光子連続トモグラフィーによる網羅的画像取得を行った。同時に無蛍光のBDA (biotynilated dextran amine)を注入し、回収切片を組織染色することで、2重染色を行い、前頭皮質と、頭頂皮質、帯状回などとの相互結合関係を詳しく調べた。興味深いことに、帯状回からの投射と、前頭皮質の対側投射は、同じ領域に投射しても、交差することなく、別々のカラムモジュールに入ることが確認できた。一方、同側の帯状回からの投射と、前頭皮質の同側投射は、同じカラムモジュールに入る場合があることも分かった。また、1層や、6層には、カラムモジュールを超えた拡散的な結合があることも分かった。つまり、皮質間の結合は、単純に領野間の結合として捉えるべきものではなく、カラム単位の集中的な結合に加え、領野を超えた拡散的な結合があり、その複合として捉えるべきである。この全貌を明らかにするには、さらに詳細な検討が必要である。また、最近開発された逆行性AAVベクターを使うことにより、経路特異的プロジェクションマッピングがマーモセットで可能になった。基礎技術の確立は、順調に進んでおり、データ取得も予定通り進んでいる。画像データ解析については、共同研究者と手法の確立を目指している。
2: おおむね順調に進展している
計画していた実験のうち、隣接領域の多色蛍光トレーサー注入実験は、2光子連続トモグラフィーと両立する形で行う形で、すでにデータを蓄積しつつある。3Dマップ作成は、共同研究者とともに、標準脳へのレジストレーション法などがある程度完成しているが、目標とする、高解像度マッピングを今後追求していく予定である。経路特異的標識法は、逆行性AAVベクターの導入により、感染効率の低さを克服することができた。ただし、トレーサー注入と並行して行うには、実験に使えるマーモセットの数が不足しているため、並行して行える新しい実験系を考案中である。
本計画は、その性質上、多数の注入例をこなすことが必要であり、今後も注入を続行する。今後必要となるのは、多数のデータをどのように複合的に解析していくかという解析方法の問題だが、マウスのパブリックデータを元に、試行錯誤をしており、その結果は、マーモセットにも生かせるのではないかと考えている。経路特異的感染実験は、より精度の高い解剖マッピングを可能にするが、現状では、マーモセットの数が不足しているため、実験が滞っている。BDAのように、無蛍光のトレーサーであれば、通常実験と並行して実験可能なため、回収切片を利用して、並行してできる系を開発し、通常の注入とともに、複合的なデータを今後得ていく予定である。
マーモセット新生児を使った実験を計画していたが、適当なマーモセットペアを購入することができず、繰越が生じてしまった。
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