研究課題/領域番号 |
16K07037
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
田畑 秀典 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 神経制御学部, 室長 (80301761)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経細胞移動 / 神経回路形成 / 神経発生 / 大脳皮質 / 神経幹細胞 |
研究実績の概要 |
ヒトは進化過程で巨大な脳を獲得したが、その1つの要因は神経細胞の産生数の増加である。哺乳類大脳皮質神経細胞は脳室帯(VZ)あるいは脳室下帯(SVZ)で産生されるが、ヒトを含めた霊長類ではSVZが著しく発達し、圧倒的な神経細胞の産生を可能にしている。申請者らはマウスのSVZを詳細に観察し、SVZ内神経前駆細胞はマウスの外側皮質VZに多いことを観察し報告した。このような脳領域に応じて神経前駆細胞の産生量を変化させる分子機構を探索した結果、Jag1が同定された。Jag1は強制発現させることで神経前駆細胞を増加させること、神経前駆細胞そのものに発現すること、霊長類ではマウスに比較して発現強度が増加し、発現領域が拡大することが確認された。本研究課題では、こうした発現の違いを生じる原因とヒト進化との関連を探索する。ヒトJag1転写開始点上流5kbp、下流1.5kbpの制御下でルシフェラーゼ遺伝子を発現するプラスミドベクターを発生過程マウス大脳皮質脳室帯に電気穿孔法により導入すると、マウスの相同領域を用いた場合よりも高い発現が観察されることが確認された。本年度はマウスおよびヒトJag1遺伝子の上流域、下流域の削り込みや配列の入れ替えを行い、種間でJag1遺伝子発現に変化が生じるための責任領域の探索を進めた。その結果、特に第1イントロンから第2エクソンがヒトとマウスの差を生じるために重要であることが確認された。また慶應義塾大学医学部との共同研究で、ヒト転写調節領域でJag1を発現するトランスジェニックマウスを作成し、その解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト転写調節領域でマウスJag1を発現するトランスジェニック(TG)マウスの作成を行った(hJ-TG)。対照実験としてマウス転写調節領域でマウスJag1を発現するTGマウスを作成した(mJ-TG)。それぞれ3および6系統を得て、その表現型を解析した。当初、mJ-TGに対してhJ-TGでSVZの拡大や脳容積の拡大が生じることを期待したが、hJ-TGでは野生型との違いは認められず、mJ-TGでは極端な小頭症を生じた。転写調節領域の種間の発現差を生じる責任領域の探索において、意外なことに第2エクソンの重要性が確認された。この領域がコードする102個のアミノ酸はマウスとヒトでは1個しか違わず、非常に高度に保存されている。しかし、塩基配列では同義置換によりG-C対が著しく増加しており、全体としてCpGアイランドとして機能していることが示唆された。TGマウスはこの第2エクソンにJag1 cDNAを組み込んだので、hJ-TGで表現型が観察されなかったと考えられる。ここまでで、ヒトで発現が強まった責任領域が特定され、その進化過程での変化が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
第2エクソンを破壊しないように、第1エクソンにJag1 cDNAを組み込んだTGマウスの作成を再度試みる。またゲノム編集技術を用いてキーとなる配列をヒト型に置換したマウスの作出を試みる。またトランスポゾンベクターによりヒト転写調節領域でJag1を発現するベクターを発生中のマウス胎仔脳ゲノムに挿入し、TGマウス作成の補完的データを得る。これらの操作によりSVZ の肥大化が生じるかを観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は研究所の建て替えがあり、11月から新たな動物実験ができなくなり、2月からは全ての実験が停止した。このため、次年度に動物実験の続きと論文作成を行うこととなった。論文作成に300,000円、動物実験とそのためのベクター作成に489,934円を使用する。
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