研究課題
申請者グループはアルツハイマー病(AD)モデルマウス大脳のリン酸化プロテオーム解析より17 個をADコア病態タンパク質として抽出した。次に、システムバイオロジー解析よりAD病態ネットワークを構築すると、驚くべきことに12 個が直接的に相互作用し、AD 患者死後脳で8 個、タウ病態モデルマウスで10 個に共通のリン酸化変化が認められた。これより、超早期から発症後の晩期までに持続される異常シグナルであること、モデルマウスのみならずヒトにも共通性を持つトランスレータブルな変化であること、Aβ のアミロイド病態からタウ病態までをつなぐ変化であることなど、複数の可能性が示唆された。(Tagawa et al, Hum Mol Genet 2015)本研究計画は早期に変化が確認されたGAPDH に注目する。その理由はエネルギー代謝に関わるGAPDHは、肥満・糖尿病がADのリスクファクターであること、肥満・糖尿病モデルマウスとの掛け合わせより痴呆の表現型がより早期に観察されることである。加えて、ADコア病態タンパク質であるMARCKSの46番目セリンのリン酸化が細胞外HMGB1の作用により亢進され、超早期アルツハイマー病態に関連する知見が得られ、抗HMGB1抗体投与により認知機能の改善された(Fujita, Tagawa et al, Sci Rep 2016)。このことより同じくADコア病態タンパク質であるGAPDHの重要性はさらに増したと考えている。本計画を進める上の重要事項は以下の3点となる。(1)GAPDHの特異的部位をリン酸化するキナーゼの同定、(2)リン酸化部位変異体(恒常的活性あるいは不活性型)によるAD病態変化の検討、(3)過食飼育したADモデルマウスのリン酸化プロテオーム解析。28年には(1)の解析と(2)と(3)の準備を進めた。
2: おおむね順調に進展している
「(1) GAPDHの特異的部位をリン酸化するキナーゼの同定」については、データベース検索より選び出した候補キナーゼによるin vitro kination assayより再現性のある明瞭な結果が得られいない。また、GAPDHと相互作用するキナーゼあるいはキナーゼ結合タンパク質の同定については、免疫沈降後のサンプルのショットガンプロテオーム解析の準備を進めている。「(2) リン酸化部位変異体(恒常的活性あるいは不活性型)によるAD病態様変化の検討」はそれぞれの変異体cDNAは作製済みである。「(3)過食飼育したADモデルマウスのリン酸化プロテオーム解析」は過食飼育したAD モデルマウスを3, 6, 12ヶ月齢で大脳のサンプリングを進めている。計画書では可能であればと記載した12ヶ月齢も進めており、29年度中には全て完了する予定である。また、該当マウスにおいてAD表現型の指標としているY迷路をサンプリング直前に試行することを加えている。データベース検索による候補キナーゼの解析結果が得られていないが、この解析が上手くいかない場合に申請書で想定しているGAPDHに相互作用する分子の検索の準備を進めている。当初計画よりマウス実験に研究エフォートが若干シフトしていることより、総合的には概ね順調に進んでいる。
引き続き、(1)GAPDHの特異的部位をリン酸化するキナーゼの同定、(2)リン酸化部位変異体(恒常的活性あるいは不活性型)によるAD病態様変化の検討、(3)過食飼育したADモデルマウスのリン酸化プロテオーム解析を行い、29年度は以下について進める。(1)において、データベース検索されたキナーゼによるin vitro kination assayについては引き続き解析条件の至適化を進め、一方でデータベースに依存せずにGAPDHに相互作用するキナーゼおよびその関連タンパク質の同定を行い、in vitro kination assayを行う。(2)は計画通りに、リン酸化変異体のAAV作製を進める。(3)については、29年度後半にはサンプルが揃うので過食ADモデルマウスのリン酸化プロテーム解析を開始する。
発注が必要となった時点で28年度内に納品可能が不確定であった物品の購入(納品が29年度)と、当該する申請により必要な物品を購入するために残額と次年度予算を合わせて次年度の購入を行うためである。
当初申請予定に消耗品として加える。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Scientific Reports.
巻: 6 ページ: 31895
10.1038/srep31895