研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の分子病理学的な特徴のひとつにアミロイドβ(Aβ)の蓄積がある。アミロイド仮説に基づきAβ抗体治療法やβ、γ-セクレターゼインヒビターの開発が進められてきたが、これまでに認知症状は改善されていない。アミロイドの蓄積前の超早期におこるADの分子病態に介入する治療法の開発を目指して、申請者らはADモデルマウスとヒト死後脳を用いたリン酸化プロテオーム解析を行い、リン酸化に変化のあった17個のAD病態タンパク質を同定した(Tagawa et al, Hum Mol Genet 2015)。本申請では、AD病態タンパク質であるGAPDHに注目したが、同様にAD病態タンパク質であるSRRM2について進展があったのでそちらを合わせて報告する。 計画通りにGAPDHをリン酸化するキナーゼの解析を進めたが、キナーゼおよびシグナルパスウエイの同定には至っていない。また、GAPDHリン酸化変異体発現系を作製したがモデルマウスにおけるAD病態変化、過食飼育ADモデルマウスのリン酸化プロテオーム解析については、再現性のある結果が得られていない。 一方で進展があったAD病態タンパク質SRRM2について報告する。超早期にSer1068のリン酸化が異常に亢進したSRRM2は核移行が妨げられ、神経細胞においてRNAスプライシング関連タンパク質が減少していた。SRRM2とのタンパク質―タンパク質相互作用があり、RNAスプライシング関連タンパク質でもある発達障害原因遺伝子PQBP1は、その減少がシナプス関連分子の発現量の大幅な変動を引き起こした。また、AAV-PQBP1によるPQBP1の補充によりADモデルマウスの認知機能やスパイン病態は回復され、遺伝子治療の可能性を示した(Tanaka, Tagawa et al., Mol. Psy. 2018)。
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