研究課題
Hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids (HDLS)は、若年性認知症を呈する遺伝性白質脳症である。原因遺伝子であるColony stimulating factor1 receptor(CSF-1R)が中枢神経系では主にミクログリアに発現していることから、ミクログリアの異常が一次的に病態に関与するミクログリオパチーとして注目されている。しかし、その白質変性機序は未解明である。本研究では、HDLS患者脳組織とミクログリア特異的CSF-1Rノックアウトマウスの組織学的、生化学的解析を行い、ミクログリオパチーであるという観点から白質変性の発生機序解明を試みることを目的としている。本年度はHDLS患者脳組織の形態学的、生化学的評価を行い、以下の結果が得られた。1,患者脳では、ミクログリアにおけるCSF-1Rの発現低下を認める。2.患者の大脳白質では、びまん性の白質変性にも関わらず、Iba1陽性かつ、p2ry12陽性、glut 5陽性のミクログリアは限局した部位に群集しており、胞体が狭く,突起が細く節状構造をもつ特徴的形態をしめしている。一方、Iba1陽性かつ、p2ry12陰性、glut 5陰性のマクロファージも群集し、Iba1陽性細胞と区別しうる。3. HDLS患者脳の非変性部位において、Iba1陽性ミクログリアは非疾患脳に比し減少している。4.ミクログリアが群集している部分には、非疾患脳に比し高頻度に増殖期 (Ki67陽性) のミクログリアが見られる。5. ミクログリア/マクロファージに発現しているタンパク質の量的解析では、HDLS患者脳において、これらが低下している。これらの患者脳における観察結果から、HDLSにおけるmicrogliaの異常が確認され、論文として発表することができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、Hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids (HDLS) 患者脳組織とミクログリア特異的CSF-1Rノックアウトマウスの組織学的、生化学的解析を行い、ミクログリオパチーであるという観点から白質変性の発生機序解明を試みることを目的としている。本年度はHDLS患者脳組織の形態学的、生化学的評価について、概ね予定通りに進行し、以下の結果が得られた。1,患者脳では,ミクログリアにおけるCSF-1Rの発現低下を認める.2.患者の大脳白質では、びまん性の白質変性にも関わらず、Iba1陽性かつ、p2ry12陽性、glut 5陽性のミクログリアは限局した部位に群集しており、胞体が狭く、突起が細く節状構造をもつ特徴的形態をしめしている。一方、Iba1陽性かつ、p2ry12陰性、glut 5陰性のマクロファージも群集し、Iba1陽性細胞と区別しうる。3. HDLS患者脳の非変性部位において、Iba1陽性ミクログリアは非疾患脳に比し減少している。4.ミクログリアが群集している部分には、非疾患脳に比し高頻度に増殖期 (Ki67陽性) のミクログリアが見られる。これらの患者脳における観察結果を論文として発表することができた。また、ミクログリア特異的CSF-1Rノックアウトマウスについては、準備実験が終了しており、予想外の所見が見られたため、方針を検討中である。
現在まで得られた結果から、ミクログリアの機能不全により白質変性が生じる可能性が非常に強く推測される。今後はミクログリアのどの様な機能不全が生じ、白質障害がどの様に始まり、脳内でどのように進展して行くのか:軸索への影響か、髄鞘やオリゴデンドログリアへの影響なのか、それを明らかにする。このために、Iba1発現細胞(ミクログリア,マクロファージ)特異的にCSF-1Rをノックアウトしたマウス(Csf1rlox/lox;Iba1Cre/Cre)の組織・生化学的解析を進めて行く。予備実験として観察した1個体においては、側脳室の拡大というHDLS患者脳と共通する特徴を認めている一方で、予想外の結果も得られているため、個体数を増やし、定量的に解析を進めたい。
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Annals of Neurology
巻: 80 ページ: 554-565
10.1002/ana.24754.