研究課題/領域番号 |
16K07047
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岸 憲幸 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (30594882)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レット症候群 / 自閉症 / ゲノム編集技術 |
研究実績の概要 |
レット症候群患者は正常なMECP2遺伝子を1コピー持っているという事実をもとに、近年進歩が著しいゲノム編集技術を用いて、不活性化している正常なMecp2遺伝子を再活性化させることを目的にしている。 この研究計画の第1段階として、平成28年度は評価系として一方のMecp2遺伝子座に蛍光蛋白GFPをノックインし、もう一方のMecp2遺伝子を破壊したマウスES細胞を樹立と、Mecp2遺伝子のプロモーター領域に結合する人工転写因子dCas-VP64の作製を行った。 評価系のマウスES細胞を作製については、理研バイオリソースセンターよりBRC6というメスのマウスES細胞株を手に入れた。それと並行して、Mecp2遺伝子を破壊するCRISPR/Cas9コンストラクトとMecp2遺伝子のストップコドン付近にdouble strand breakを生じさせるためのCRISPR/Cas9コンストラクトと、ノックインさせるためのGFP遺伝子を含むドナーベクターを作製した。 次に1つのMecp2遺伝子の破壊のため、BRC6細胞にMecp2遺伝子を破壊するCRISPR/Cas9コンストラクトをトランスフェクションにて導入した。その結果、Mecp2遺伝子の標的遺伝子にdeletion変異が挿入されたES細胞を得られたが、9塩基対の欠損であったため、MeCP2蛋白のうち3アミノ酸のみが欠損した蛋白ができることが予想され、MeCP2蛋白の機能はおおよそ維持されてしまうことが予想されたため、現在、再度同じ実験を繰り返し、1つのMecp2遺伝子が破壊されたES細胞株作製を継続している。 Mecp2遺伝子のプロモーター領域に結合する人工転写因子dCas-VP64作製についてはSanta Cruz Biotechnology社が提供しているものを使用することにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、Mecp2遺伝子のプロモーター領域に結合する人工転写因子dCas-VP64の作製と、Mecp2-GFP/-のモニター用のES細胞樹立を計画していた。前者はSanta Cruz Biotechnology社から提供されるものを使うことにしたため達成できたが、後者のモニター用ES細胞については完成に至らなかった。その理由として、メスのマウスES細胞株の取得に予想以上に時間がかかったことが挙げられる。研究の理由によりX染色体を2つ持つメスのマウスES細胞である必要があったが、研究で使われているマウスES細胞の多くがオス由来であり、メスのES細胞を探すのに多くの時間を要した。最終的に理研バイオリソースセンターに寄託されていたメスのES細胞株BRC6を見つけたが、寄託者からの承諾やMTAの手続きにも時間を要してしまった。更に、初めて使うES細胞株であったため、培養方法や遺伝子の導入方法の最適化なども行う必要もあり、本実験のための予備的実験に多くの時間を使ってしまった。 最終的にMecp2-GFP/-のES細胞株樹立には至らなかったが、この細胞樹立に必要なプラスミドは既に作製を終え、コンストラクトが機能していることは細胞系で確認されたので、平成29年度の早い段階で樹立を完了するものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、達成を目標としていた2つの項目のうち、モニター用のES細胞株の樹立を終えることができなかった。大きな原因として、情報収集不足により研究に必要な細胞の取得に時間がかかってしまったことがある。平成28年度に達成できなかったモニター用のES細胞株の作製は平成29年度に持ち越しになったが、早期に完了し、平成29年度の研究項目である神経系への誘導法や評価系の確立に移行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初提出した計画書ではエレクトロポレーター(200万円)の購入を予定していたが、当初申請していた予算額が減額されたため購入を断念し、リポフェクション試薬による方法に切り替えた。そのため、平成28年度は当初予定していた予算額より少ない執行額になった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の残額898,013円については、平成29年度は細胞の培養規模が拡大するので、それに伴う各種サイトカインやディスポーザルの消耗品の購入に使用する予定である。
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