細胞成長のマスターレギュレーターであるmTOR(mammalian target of rapamycin)が神経分化過程において、細胞サイズや細胞形態の制御にどのような影響を及ぼすが調べた。ラット胎児、およびヒトiPS由来、ヒト胎児由来(倫理委員会承認済)の神経幹細胞(NSCs)にmTOR活性化型変異遺伝子を導入し、恒常発現させたところ、増殖期のneurosphereの段階では明らかな変化は認められなかったが、分化誘導後に細胞の大型化、異形化が観察された。これは結節性硬化症、限局性皮質形成異常、片側巨脳症といったいわゆる”mTORpathy”による脳形成異常症で見られる異常細胞のモデルの作成といえ、創薬への利用が可能となった。 mTORシグナルの阻害に関しては、阻害剤では機能の異なる2つの複合体mTORC1とmTORC2のシグナルを分離することができない(従来mTORC1特異的と言われていたラパマイシンも連続投与では双方阻害する)。そこで下流の基質と結合するモチーフを用いた分子デコイを開発した。mTORC1の基質に共通するTOSモチーフをGFPとの融合蛋白として発現させ、基質である4EBPやp70S6Kのリン酸化を抑制することに成功した。mTORC2に関しては基質認識パートナーであるmSin1のCRIMドメインをデコイとして、下流のAktのリン酸化阻害に成功している。 デコイは一過性の発現ではシグナルの変化に留まり、細胞形態の変化までは観察できなかったが、腫瘍細胞を用いた恒常発現株では形態変化を示した。 このようにmTOR活性の強制的なon/offによって細胞フェノタイプが変化することが明らかとなった。
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