研究実績の概要 |
認知症の患者数は、寿命の延長に伴い年々増加し、社会問題化している。認知症の80-85%は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease, AD)と脳血管障害(血管性認知症)が占める。しかし、両者が合併することも多く、混合型認知症ともいわれる。ADにはコリンエステラーゼ阻害薬またはNMDA受容体拮抗薬が使用されるが、これら既存の治療薬は、根本的な治療法とはいえない。ADにおいて、早期の段階でオリゴデンドロサイトや髄鞘の機能異常が生じており疾患の発症や進行に関与していることが示唆されている。本研究において、ADの主要病原タンパクであるアミロイドβ(Aβ)を神経細胞のみではなく、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)/オリゴデンドロサイト(OLG)が産生し、Aβ産生経路や非生産経路に関わる因子を発現していることやAβの前駆タンパクであるAPPのアイソフォームがOPCからOLGへの分化により変化することなどを確認した(Hida, Maki* et al. in preparation)。また、Aβオリゴマー投与により、OPC、血管周皮細胞、血管内皮細胞の正常な相互連携が障害され、血液脳関門、神経グリア血管単位の破綻やOPC分化能抑制などにより、AD病態が加速されうることも見出した(Toyokawa, Maki* et al. in preparation)。OPC/OLGがAD病態に関わる詳細な機序を追究することによりこれまで認識されていなかったAD病態の一部を明らかにできる可能性がある。
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