研究課題/領域番号 |
16K07058
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
山本 秀幸 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60191433)
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研究分担者 |
仲嶺 三代美 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20381105)
鳥原 英嗣 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50757218)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 視床下部神経細胞 / GPCR / ゴナドトロピン放出ホルモン / CaMキナーゼII / プロテインキナーゼD / Fyn / Pyk2 / 上皮成長因子受容体 |
研究実績の概要 |
研究代表者らは、これまでにマウスの視床下部の神経細胞の培養細胞株であるGT1-7細胞を用いて、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の一つであるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体刺激後の細胞内シグナル伝達機構について検討してきた。2年前に、プロテインキナーゼD(PKD)がチロシンキナーゼ系の活性化に関与することを見いだした。また、カルモデュリンキナーゼII(CaMキナーゼII)は、神経細胞に多く発現しており、カルシウムイオンとCaMによって活性化される。PKDは触媒ドメインの構造と基質特異性の類似性からCaMキナーゼファミリーに属し、CaMキナーゼIIと同様の生理機能を有することが示唆されている。我々は、チロシンキナーゼの中のproline-rich tyrosine kinase 2 (Pyk2)と上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化機構を研究してきた。これまでに、Pyk2の活性化機構については、PKDとCaMキナーゼIIがSrcファミリーの中のFynとPyk2の相互作用を増強させることが明らかになってきた。この分子機構により、GnRH受容体刺激後にPyk2がFynにより活性化されると考えられる。また、EGFRのリガンドの一つであるHB-EGFの産生を測定する系を確立し、Pyk2が細胞膜に存在するHB-EGF前駆体を切断してHB-EGFの産生に関わる可能性を見いだした。産生されたHB-EGFがEGFRを活性化すると考えられる。PKDとCaMキナーゼIIは、Gq/11と共役するGPCRによって活性化される。すなわち、今回の研究は、GnRH受容体以外の多くのGq/11と共役するGPCRについての細胞内シグナル伝達機構を解明する上でも有用な知見を提供するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度までに以下の三つの研究成果が得られた。 1.我々は、GT1-7細胞では、PKDとCaMキナーゼIIのアイソフォームとして、それぞれ、PKD1とデルタ2が主に発現していることを見いだした。それぞれのsiRNAを用いたノックダウン実験と阻害薬を用いた薬理学的実験および過剰発現実験により、両者がGnRH受容体刺激後のPyk2の活性化に関与することを見いだした。Pyk2を直接に活性化するのはFynであり、PKD1とCaMキナーゼIIデルタ2は、Pyk2とFynの相互作用を促進させると考えられる。 2.我々は、アルカリフォスファターゼとHB-EGF前駆体の融合タンパク質をGT1-7細胞に過剰発現させ、細胞培養液中のアルカリフォスファターゼの活性を測定することで簡便にHB-EGF前駆体の切断を測定する系を確立した。この系を用いて、Pyk2がHB-EGF前駆体の切断に関与することが明らかになった。 3.これまでに見いだしたPKD1とCaMキナーゼIIの作用が、下垂体のゴナドトロピン産生細胞でも機能していることを確認した。これらの結果は、見いだしたシグナル伝達機構の普遍性を示唆するものである。 よって、本研究課題の進捗状況として、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の三つの内容について検討していく予定である。 1. PKD1とCaMキナーゼIIデルタ2がPyk2とFynの相互作用を促進させる分子機構を明らかにする。我々は、FIP200とよばれるPyk2の阻害タンパク質がGT1-7細胞に多量に発現していることを見いだした。さらに、FIP200がPyk2と結合していることを確認した。今後は、まず、FIP200をノックダウンすることで、Pyk2のFynによる活性化が起こるかを検討する。さらに、PKD1とCaMキナーゼIIによりFIP200がリン酸化されてPyk2に対する阻害作用が減弱する可能性を検討する。 2.これまでに開発したHB-EGF前駆体の切断機構の解析方法を駆使して、Pyk2によるHB-EGF前駆体の切断の分子機構を解明する。まず、HB-EGF前駆体を切断するタンパク質分解酵素を明らかにする。次に、明らかになったタンパク質分解酵素がPyk2によってリン酸化されて活性化される可能性を検討する。リン酸化が検出できない場合は、別の可能性として、Pyk2がHB-EGF前駆体とタンパク質分解酵素の相互作用を促進させる可能性を検討する。この実験では、不活性型のタンパク質分解酵素をGT1-7細胞に発現させて検討する予定である。 3.これまでに見いだした細胞内シグナル伝達機構が他のGPCR刺激でも機能しているかを検討する。まず、下垂体前葉細胞の培養細胞であるGH3細胞を用いて、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体刺激後のPyk2の活性化とその分子機構を検討する。次に、副腎髄質細胞の培養細胞であるPC12細胞を用いて、ブラディキニン受容体刺激後のPyk2の活性化とその分子機構を検討する。これらの研究により、我々が見いだした細胞内シグナル伝達機構が様々な細胞で機能していることが明らかになるものと期待される。
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