研究課題
Lemur kinase 1 (LMTK1)は哺乳動物脳で高発現する新規キナーゼである。やはり脳で機能するキナーゼCdk5に結合するタンパク質として単離された。長らく機能不明であったが、最近、LMTK1活性の低下(ノックアウト、ノックダウン、不活性型の発現など)が軸索や樹状突起の過形成を引き起こすことから、軸索や樹状突起の伸長をネガティブに制御していることを明らかにした。本研究では、LMTK1の二つのアイソフォーム、LMTK1AとLMTK1Bの発現パターンの解析やノックアウトマウスを用いて行動解析を行った。LMTK1には膜貫通領域の有無によって、LMTK1A(膜貫通配列なし)とLMTK1B(膜貫通配列あり)が存在する。しかし、これまでの研究のほとんどはLMTK1Aで行われてきた。そこで、LMTK1Bがどの程度発現しているかをまずは調べた。それぞれを特異的に認識する抗体は存在しないため、mRNAレベルでの検討を行った。LMTK1A、LMTK1Bともに発生直後の脳で検出されたが、発達に伴い量は増加していた。成体に到るまで、ほぼ同じ程度で発現していた。脳内のほとんどの神経細胞で発現が見られ、一部のグリア細胞でも発現しているようであった。ノックアウト(KO)マウスの脳の組織を観察したが大きな異常は見られなかった。ただし、シナプスタンパク質に対する抗体で脳を染色した時、シナプスの数が増加していることが判明した。電子顕微鏡観察を行うとシナプス前週末の肥大が観察された。シナプスの増加は発達障害でも報告されている。LMTK1 KOマウスの行動解析を行ったところ、不安様行動が減少して、行動が過剰になっていた。現在論文を執筆中である。これらは自閉症の特徴とも一致しており、LMTK1 KOマウスは自閉症モデルマウスとして利用できる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
LMTK1は新規の脳キナーゼであり、その機能ばかりでなく、基礎的な情報も不足していた。LMTK1のマウス脳における発現をRT-PCR法、ウェスタンブロット法とin situ hybridization法により検討し、ほどんどの神経細胞と一部のグリア細胞に発現していること、発現は加齢に伴い上昇することなどを明らかにした。LMTK1には 非膜貫通型のAと膜貫通型のBの二つのアイソフォームがあるが、それらを初めて別々に検出し、マウス脳内では LMTK1Aと LMTK1Bがほぼ同じ割合で発現していることが判った。この様にLMTK1についての基礎的な知見を本年度の研究で得ることができた。 LMTK1 KOマウスの表現形はLMTK1の生体内での機能についての情報を得ることができる。KOマウスを用いて、脳の形態や行動に対する影響を調べた。脳の構造については、小脳を中心にして調べた。蛍光抗体法によりシナプスの数が増加していることが判明した。電子顕微鏡で小脳プルキンエ細胞のシナプス部位(平行繊維領域)を観察したところ、プレスナプス領域が増大していた。また、昨年度から今年度にかけてLMTK1のシナプス形成に対する影響も検討を続けていた。その点における大きな進捗はLMTK1がRab11を制御する仕組みを見つけたことである。LMTK1はRab11のGAP(不活性化因子)であるTBC1D9Bを活性化し、Rab11活性を抑制していることが判明した。これによりCdk5から、LMTK1/TBC19B/Rab11/recycling endosomeというシグナル伝達のカスケードが確立された。特に、Rab11の制御因子と機能についてはほとんど判っていなかったが、GAPの一つが神経細胞の突起伸長に関係することを示した初めての例である。
平成29年度の研究では、主に三つの大きな進展が見られた。一つはLMTK1AとLMTK1Bの二つのアイソフォームが同程度マウス脳内で発現していることである。今後はLMTK1Bについても調べていく必要があることが解理、現在発現ベクターなどを準備して、その発現を確認しているところである。LMTK1AとLMTK1Bの違いは膜貫通領域の有無にある。即ち、両者の違いは細胞内小器官との結合様式にある可能性が高く、今後はLMTK1Bの小胞輸送や神経突起伸長に対する役割を検討していく予定である。できれば、LMTK1AとLMTK1Bの機能的差異をより明確にするため、KOマウスへのそれぞれのアイソフォームを戻して発現させ、機能レスキュウ実験を行うのが望ましい。そのため、KOマウスでの明確な表現形を見つけることが大事である。そのために、KOマウスでの組織レベルや行動解析なども行っている。現在までは、シナプスの数の増加やKOマウスで多動性や不安様行動の減少などが観察されている。今後はこれらの現象とLMTK1のキナーゼ活性やリサイクリングエンドソーム輸送制御との関連を明らかにしていくのが重要であると考えている。そのため、分子レベルと個体レベルでの実験を継続して行っていく。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Fron. Mol. Neurosci.
巻: 12 ページ: 44
10.3389/fnins.2018.00044
J. Biol, Chem.
巻: 293 ページ: 1781-1793
10.1074/jbc.M117.798918
The Journal of Neuroscience
巻: 37 ページ: 790~806
10.1523/JNEUROSCI.2197-16.2017
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 8602
10.1038/s41598-017-09239-5
http://www.biol.se.tmu.ac.jp/labo.asp?ID=neumol