Lemur kinase 1 (LMTK1)は哺乳動物脳で高発現する新規キナーゼである。やはり脳で機能するキナーゼCdk5に結合するタンパク質として単離された。長らく機能不明であったが、最近、LMTK1活性の低下(ノックアウト、ノックダウン、不活性型の発現など)が軸索や樹状突起の過形成を引き起こすことから、軸索や樹状突起の伸長をネガティブに制御していること、および、その仕組みとしてRab11を介したエンドソーム輸送を介してであることを明らかにした。昨年度では、LMTK1ノックアウトマウスのオープンフィールドテストから多動であることを見つけた。今年度では、メチルフェニデートを用いて、多動が抑えられることから、LMTK1ノックアウトマウスと注意欠陥多動性障害との関係が示唆された。LMTK1ノックアウトマウスを用いてさらなる行動解析を行った。その結果、記憶形成などには異常は見られなかったが、高架十字テストでは不安様行動が低下していることがわかり、自閉症の表現型の一部を再現することが示された。また、昨年度にはLMTK1ノックアウトマウスの脳でシナプスが増加していることを見つけたが、今年度はさらに詳しい解析を進めた。培養神経細胞でLMTK1をノックダウンすると、樹状突起におけるスパインの密度が増加することが示された。これにはRab11を介したエンドソーム輸送が関与していた。LMTK1はRab11の不活性化を介して、スパイン形成をネガティブに制御していること、それにはRab11の不活性化因子であるRab11-GAPのTBC1D9Bが関わることを見つけた。LMTK1が神経軸索、樹状突起、スパインを制御する分子カスケード、LMTK1-TBC19B-Rab11-recycling endosomeが初めて明らかとなった。LMTK1のスパイン形成における役割については現在論文投稿中である。
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