研究課題/領域番号 |
16K07063
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
周防 諭 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (20596845)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Gタンパク質共役型受容体 / 神経伝達物質 / C. elegans / カルシウム |
研究実績の概要 |
Gタンパク質共役型受容体は神経伝達物質を含む様々な生体物質の受容体であるが、一つの伝達物質に対し受容体が複数存在することが知られている。線虫C. elegansでは、神経伝達物質のオクトパミンはSIAと呼ばれるニューロンでSER-3とSER-6の二種類のオクトパミン受容体に作用していることを明らかにしている。本研究では、この系を用いて、類似した受容体が複数存在することの生理的な意義を明らかにすることを目標にしている。これまでに、カルシウムイオン濃度を測定できる蛍光たんぱく質プローブの遺伝子とSIA神経特異的な遺伝子発現を起こすプロモーターの融合遺伝子を作成し、線虫に導入して、遺伝子導入株を作成している。この遺伝子導入株について、Olfactory chipと呼ばれる線虫を半固定するマイクロ流路デバイスを用いたカルシウムイメージング解析に着手し、線虫株や観察条件を最適化した。その結果、野生型バックグラウンドの株について、再現性よくオクトパミン投与によってSIAニューロンでのカルシウム反応が検出されるようになった。さらに、オクトパミン受容体変異体のバックグラウンドの株について解析を行い、これまでの予備的な解析では、Gq共役型のSER-3とSER-6のほかに、Gi共役型のOCTR-1もカルシウム反応に働くことが示唆されている。 さらに、SIAニューロンでのオクトパミンシグナル伝達によって線虫の運動量が制御されることを見出した。オクトパミンシグナル伝達の亢進によって運動量が増加するが、この運動量の亢進には、SER-3、SER-6に加えてOCTR-1が関与していた。蛍光プローブで観察したSIAニューロンの反応が運動量の制御に関与していることを示唆しており、このオクトパミン経路が生理的に有意義な役割を担っていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の研究では、初めに、Olfactory chipと呼ばれるマイクロ流路デバイスを用いて、カルシウムプローブをSIAニューロンに発現させた線虫株を測定することで、オクトパミン投与によりSIAニューロンでのカルシウム濃度上昇が観察されることを見出した。通常のインジェクションで作製した遺伝子導入株では導入遺伝子が半安定的にしか保持されないため、個体ごとに蛍光プローブの発現量のばらつきが大きく、安定してカルシウム反応を検出することができなかった。そこで、UV照射により導入遺伝子をゲノム内に組み込むことで安定的な遺伝子導入株を作製するとともに、オクトパミン濃度やデバイス内の流路形成等の実験条件を最適化した。その結果、野生型バックグラウンドの株について、再現性よくオクトパミンによるカルシウム反応が検出されるようになった。さらに、オクトパミン受容体変異体のバックグラウンドの株について解析を行い、これまでの予備的な解析では、Gq共役型のSER-3とSER-6のほかに、Gi共役型のOCTR-1もカルシウム反応に働くことを示唆する結果が得られている。 さらに、オクトパミンによる運動量の制御については、オクトパミン受容体遺伝子の変異体を用いて運動量の解析を行い、カルシウム反応と同様に3種のオクトパミン受容体が運動量の制御に関与していることを明らかにした。また、細胞特異的レスキュー実験を行うことで、SIAニューロンでのオクトパミンシグナル伝達が運動量の増加を引き起こすことを強く示唆する結果が得られている。この結果により、上記のイメージングで解析しているSIAでのオクトパミンシグナル伝達の下流で、運動量の制御が行われていることが示唆された。 蛍光プローブを用いた解析では、当初の計画よりやや遅れているが、線虫の運動量の制御について重要な発見があったので、総合的にみて順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の研究で、野生型バックグラウンドの株で、オクトパミンに対するSIAニューロンでのカルシウム反応が安定して検出されるようになった。さらに、SER-3、SER-6、OCTR-1の単独の変異体では、オクトパミンに対するカルシウム反応が起こることが示唆されている。今後は、これら変異体や全ての組合せの2重変異体、3重変異体について詳細な解析を行う。また、受容体の下流で働く因子などについても解析を行いオクトパミンによるカルシウムシグナル伝達を明らかにしていく。さらに、cAMPプローブを用いて同様のイメージング解析を行い、SIAニューロンでのcAMP濃度変化についても解析する。 これまでの研究で、SIA神経細胞でのCREBの活性化については、SER-3とSER-6が必要でOCTR-1は必要でないことを明らかにしている。しかし、上述の通りOCTR-1もカルシウム反応には必要であることが示唆されている。そこで、OCTR-1がどのような機序でSIAニューロンでのオクトパミンシグナル伝達に関与しているか明らかにする。そのために、まずOCTR-1の発現部位の解析を行う。さらに、OCTR-1の細胞特異的レスキュー実験を行いOCTR-1がSIAニューロンで働いているのか、それとも別の細胞で間接的に作用しているのか明らかにする。 また、SIAニューロンでのオクトパミン経路の生理的な役割を明らかにすることは本研究にとって重要であるので、オクトパミンによる運動量の制御に関しても解析を進めていく。そのために、受容体の変異体やその上流や下流で働く遺伝子についても運動量の解析を行う。さらに、セロトニンやいくつかのニューロペプチドなど、既に運動量制御に関わることが報告されている因子との相互作用についても解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
応募時研究計画では28年度にイメージング用の高性能CCDカメラを購入し、既に研究室に設置してある蛍光顕微鏡に取り付けて使用することを検討していた。しかし、交付決定した予算は申請の予算よりも小さいので、これらの設備について十分な性能を持つものを購入すると他の予算を十分に確保することが難しかった。連携研究者の坪井貴司博士の研究室では、すでにイメージング解析用の顕微鏡システムが設置されており、ここでマイクロ流路デバイスを用いた解析を行うことが可能となった。このため、上記のCCDカメラの購入はしなかったので、次年度使用額が生じた。29年度および30年度についても、交付決定した予算は申請の予算よりも小さい。従って、28年度に生じた次年度使用額を、この2年間で使用することを計画した。すでに、一部が29年度で使用されていて、その残額が30年度への次年度使用額となった。 30年度は、応募時での計画の通りに、分子生物学実験試薬、線虫飼育用試薬、プラスティック器具などの消耗品を含めた物品費や旅費等に使用していくことを計画している。また、オクトパミンによる運動量の制御についてさらなる解析を行うことは本研究にとって重要である。そこで、この行動解析のための分子生物学実験試薬、線虫飼育用試薬、プラスティック器具などの消耗品や少額の備品等の物品費についても一部使用することを計画している。
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