シンタキシン1(STX1)は神経伝達物質の開口放出の中心的役割を担う分子の一つである。その多くが神経細胞の形質膜上に存在し、神経修飾物質の活性やその局在の調整などにも関与している。一方、STX1はグリア細胞にも発現しているが、グリア細胞における機能についてはほとんど報告されていない。本研究では、STX1欠損マウスを用いて、開口放出や神経細胞の活性、シナプス形成の制御といった神経細胞-グリア細胞間相互作用に対するグリア細胞のSTX1の機能を明らかにすることを目的とする。 グリア細胞でのSTX1の機能を検討するために、STX1とともに必須である因子の同定を試みた。WTおよびSTX1A欠損、STX1B欠損グリア細胞で候補因子の発現を調べたところ、開口放出に関わる因子の多くで発現量の変化は認められなかったが、Munc18の発現量が低下していた。グリア細胞から分泌される栄養因子群のうち、STX1B欠損グリア細胞において細胞内でのBDNFとNT3の発現量が増加し、BDNFの分泌量が低下していた。神経伝達物質などの取込・回収に関わる因子に関しては、STX1B欠損グリア細胞においてGAT1、GAT3の発現量の低下が認められた。実際、GABAのグリア細胞への取込が低下していた。また、STX1B欠損により、グリア細胞へのグリシンの取込が低下していた。さらに、グリア細胞上で神経細胞の培養を行うことで、神経細胞の形態やシナプス形成への影響を検討したが、主要な神経突起数やシナプス数へのSTX1欠損による影響は認められなかった。以上により、グリア細胞のSTX1は、GABAやグリシンといった抑制性神経伝達物質の取込を制御し、細胞外環境の興奮性と抑制性のバランスを調整していることが明らかとなった。
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