本研究では、アストロサイトに特異的に発現し、その遺伝子産物がシナプスを取り巻くアストロサイトの突起末端(perisynaptic astrocyte processes)に局在するNBCe1-C 分子の生理機能を明らかにすることで、perisynaptic astrocyte processesにおけるHCO3-を介したpH調節機構が、シナプス伝達および脳機能に及ぼす影響を明らかにしようとした。そのための方策として、1)アストロサイトでのNBCe1-C分子の発現を欠失させた遺伝子改変マウスの創出。2)NBCe1-C分子に特異的に相互作用する分子群の探索とその相互作用の機能解析、という2つの面から研究を進めた。 1)我々が保有するSlc4A4 W516X KIマウスは、全てのsplicing isoformsの発現が欠失し、腎臓発現NBCe1-Aの機能消失のために尿細管性アシドーシスをきたし、全例生後3週までに死亡する。高次脳機能解析に堪えるNBCe1-C@アストロサイトの発現欠失させたマウスを得るべく、このKIマウスをバックグラウンドにNBCe1-Aを腎臓に発現させることとした。本年度、Sglt2プロモーターの下流にヒトNBCe1-Aに配したトランスジェニックマウスの産出にようやく成功した(6系統)。今後、これらトランスジェニックマウスでNBCe1-Aが腎臓近位尿細管のみに発現しているかどうかを確認していく。 2)NBCe1-CのC末端領域に特異的に結合する分子群を探索したところ、Ca2+/CaM依存性のタンパク質脱リン酸化酵素であるカルシニューリンの触媒サブユニット(CaNA-alpha and beta)に結合すること、カルシニューリンによる脱リン酸化によって、NBCe1-Cの細胞膜上への発現が増加することを見出し、この結果については誌上発表した。
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