研究課題
本年度は、アルコール依存時におけるドパミン神経系に対する代謝異常の関与について検討する目的で、特にエネルギー代謝に深く関わるmammalian target of rapamycin (mTOR)を中心に検討した。まず、ethanolがmTORに及ぼす影響について検討したところ、ethanolを慢性処置したマウスの腹側被蓋野領域において、mTORのmRNAおよびリン酸化レベルの有意な増加が認められた。次に、mTORの下流因子であるリン酸化ribosomal protein S6 (p-S6)の腹側被蓋野領域における局在を確認するために、免疫組織学的染色法に従い検討を行った。その結果、腹側被蓋野領域においてdopamine神経のマーカーであるtyrosine hydroxylase (TH)陽性細胞体上にp-S6の発現が認められた。そこで、mTOR関連因子について検討を行ったところ、ethanolの慢性処置により、p-S6K、p-4E-BP、p-LRRK2、p-FOXO1 のタンパク質発現量の有意な増加が認められた。最後に、ethanol慢性処置におけるmTORのethanol誘発報酬効果への影響を検討するために、ethanol慢性処置後、mTOR阻害剤であるrapamycin (3 nmol/mouse)を処置し、休薬後、ethanol (1.0g/kg, p.o.)誘発報酬効果への影響を検討した。その結果、ethanol慢性処置により認められるethanol誘発報酬効果の増強は、mTOR阻害剤の処置により有意に減弱した。以上の結果より、ethanol慢性処置はdopamine神経においてmTOR活性変動を引き起こし、エネルギー代謝系を変化させ、ethanolに対する報酬効果の増強を誘導する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究目的は、ethanol依存症に対する脳内神経細胞における代謝異常の関連性を明らかにすることである。本研究では依存症の中核を担う腹側被蓋野領域において、エネルギー代謝に深く関わるmTORおよびその関連因子が、ethanol慢性処置により有意に変化し、さらに行動薬理学検討においてmTORの阻害薬であるrapamycinによりethanol誘発報酬効果の増強が有意に抑制された。このように、ethanol慢性処置が腹側被蓋野領域でのエネルギー代謝系に影響を及ぼしている可能性が示唆されたことから、本研究は順調に進展していると思われる。
本年度に得られた結果より、ethanol依存症においてドパミン神経で代謝異常が引き起こされている可能性が示唆されたことから、来年度はどのような代謝系が影響を受けているかについて検討する。すなわち、ethanol慢性処置により、糖質や脂質、タンパク質などの代謝経路が変化するかについて、生化学的手法や行動薬理学的手法により検討を行う。
本研究に必要な物品で、残額内で購入できる試薬等がなかったため。
本研究に必要な物品で、出来るだけ該当額に近しい消耗品の購入費に加える予定。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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