研究課題
昨年度の報告において、エネルギー代謝に深く関わるmammalian target of rapamycin (mTOR)の阻害剤であるrapamycinにより、ethanolによる報酬効果の増強が、有意に減弱したことから、ethanolの精神依存に脳内のエネルギー代謝が関与する可能性が示唆された。一般に、依存性薬物が精神依存を引き起こす機序には中脳辺縁dopamine神経系が関与することが知られている。そこで、本年度は昨年度の結果を基に、ethanolの慢性処置がdopamine神経を介した反応であるかを検討すると共に、ethanolがエネルギー代謝に対して及ぼす影響について検討する目的で、cFos-TRAPマウスを用いて検討した。Ethanolによる活性化神経細胞を検出するために、cFos-TRAPマウスにethanolを慢性処置し、腹側被蓋野領域から分取したThy1+/GFP+ (positive) cellとThy1+/GFP- (negative) cellを用いて検討したところ、ethanolを慢性処置したマウスの腹側被蓋野領域においてdopamine神経細胞の活性化が確認された。この活性化神経細胞の特性について検討したところ、ethanolによる活性化神経細胞ではmTORの著明な発現が確認された。更に、ミトコンドリア機能調節に関わるdynamin related protein 1 (DLP1)やperoxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1α (PGC1α)も活性化神経細胞において顕著に認められた。したがって、ethanolの慢性処置は、mTORを含有するdopamine神経細胞を特異的に活性化し、エネルギー代謝に影響を及ぼすと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究目的は、ethanol依存症に対する脳内神経細胞における代謝異常の関連性を明らかにすることである。本研究では依存症の中核を担う腹側被蓋野領域において、エネルギー代謝に深く関わるmTORが、ethanolにより活性化する細胞において特異的に発現していること明らかにした。更に、mTORのみならずATP産生を行うミトコンドリア機能にも影響を及ぼす可能性が得られたことから、本研究は順調に進展していると思われる。
昨年度および本年度に得られた結果より、ethanol慢性処置によりmTORを含有したdopamine 神経が活性化され、mTORを抑制することによりethanolによる依存症が抑制されたことから、腹側被蓋野領域におけるdopamine神経細胞において細胞内代謝に異常が引き起こされている可能性が示唆された。したがって、今後は腹側被蓋野領域におけるアミノ酸や糖質などの代謝経路がどのように変化しているかについて、質量分析や生化学的手法、行動薬理学的手法により検討を行う。
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http://polaris.hoshi.ac.jp/kyoshitsu/yakuri/