昨年度までの報告において、ethanolの慢性処置により、mammalian target of rapamycin (mTOR)を含有するdopamine神経細胞が特異的に活性化されることを見出した。さらに、mTORの阻害薬であるrapamycinにより、ethanol誘発報酬効果の増強を有意に抑制することも明らかにしている。そこで本年度はエネルギー代謝に着目し、ethanol慢性処置動物を用いて、dopamine神経系の起始核である腹側被蓋野領域におけるアミノ酸や糖質などの変化について検討した。GC/MS/MSを用いて網羅的に解析したところ、ロイシンやイソロイシン、システインなどのアミノ酸において、増加傾向は認められたが、有意な差は認められなかった。一方、糖質についても解析したところ、グルコースやフルクトースなどに顕著な変化は認められなかったが、ガラクトースは対照群に比べethanol処置群において著明な増加が認められた。この増加はethanol休薬10時間および3日後において、対照群程度まで減少した。そこで生体での代謝の変化も考慮し、同条件の肝臓サンプルを用いて検討したところ、脳サンプルと同様にガラクトースはethanol処置群において著明な増加が認められ、アルコール休薬により速やかに減少した。アルコールの代謝時間を勘案すると、この増加はアルコールの直接作用である可能性が考えられる。また、現在までに、ガラクトースの慢性処置によりmTORのリン酸化が亢進することが報告されている。したがって、アルコールの慢性処置は、脳内のガラクトース量を増加させ、mTORの活性化を引き起こし依存症を惹起する可能性が示唆された。
|