本研究は、家族性ALSタイプ6(以下、ALS6)においてRNA結合蛋白質であるTLS/FUSを介したRNA代謝が阻害されることに着目し、脊髄運動ニューロン内の正常なRNA代謝に関わるTLS/FUSの特異的リン酸化シグナルを同定することによりRNA代謝異常からALS6発症に至るクリテイカルな変性初期過程を明らかにする目的で実施した。平成28年度~平成29年度は、脊髄運動ニューロンモデル細胞NSC-34においてRNAエクソソームとして放出されるチロシンリン酸化TLS/FUSは、Srcファミリーチロシンキナーゼの特異的阻害剤PP1投与により顕著に阻害されるが、TLS/FUSのC末領域をリン酸化するプロテインキナーゼCやcAMP依存性プロテインキナーゼの阻害剤による放出制御を受けないことを明らかにした。平成30年度には、NSC-34細胞の変性誘導時に特定のPiwi-interacting RNA(PiRNA)がRNAエクソソームとして放出されることを明らかにした。すでに、PiRNAの中枢神経変性回避への関与が複数報告されているが、脊髄運動ニューロンにおいても変性防御機構の一端を担っていると考えられる。また、PP1によりTLS/FUSとExsosome component9との結合も顕著に阻害され、さらにTLS/FUS-RNAエクソソーム会合体中にALIXが検出されなかったことから、TLS/FUS-RNAエクソソームの放出は、Synedecan-Synteninとの相互作用でおこる細胞内エンドソームの細胞外放出とは異なる機構を利用していると考えられる。また、SrcファミリーチロシンキナーゼによるTLS/FUSのチロシンリン酸化は、TLS/FUSの非対称ジメチルアルギニン化を伴うことも明らかとなった(投稿準備中)。これらの結果は、TLS/FUS点変異体の発現下では、TLS/FUSの正常かつ段階的に起こる翻訳後修飾が障害されることが、ALS6にみとめられるRNA代謝異常の主たる初期要因であることを示唆している。
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