研究課題
てんかんは、長年の研究にも関わらず、その発症機構に未解明の点が多く、この事が治療と予防を困難にしている。てんかん発作の起点となる大脳皮質や海馬等の興奮性シナプスにおいて、何らかの機能不全により興奮性の異常亢進が生じ、それが脳内の他の領域にまで伝播するものと考えられるが、シナプスに局在し機能するタンパク質群を制御する機構がどの様な変調を起こすのか、また、興奮性/抑制性神経活動のバランスを保てずにてんかん発作に至る原因は何か、その詳細は不明なままである。特に、シナプスにおける神経伝達物質受容体の制御異常と、てんかん発作が起こる過程でのシナプスの機能的破綻メカニズムとの因果関係は十分に明らかにされていない。脊椎動物の脳において、グルタミン酸は主要な興奮性神経伝達物質であり、大脳皮質と海馬のグルタミン酸作動性シナプスにおけるAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)の制御異常は、興奮性/抑制性神経活動のバランス崩壊を起こし、てんかん発作を誘発すると予想された。本研究は、可逆的なパルミトイル化翻訳後修飾によるAMPA受容体のシナプス発現と膜局在の調節機構に注目して、興奮性シナプスにおける分子修飾異常に伴うてんかん発作の発症機構の解析を進めた。平成29年度は、既に作製したAMPA受容体GluA1サブユニットの非パルミトイル化修飾型遺伝子改変マウスを用い、脳スライスの組織染色、痙攣誘発薬および抗てんかん薬等を用いたマウス個体レベルでの薬理学的解析、電気生理学的解析、化学的にシナプス可塑性を誘導したスライスでのスパイン構造変化のイメージング、等を組み合わせた実験から、パルミトイル化異常に伴うAMPA受容体のシナプス過剰発現によって興奮性/抑制性神経活動のバランスが崩れ、てんかん発作につながる過程でどのようなシナプス変化が生じているのかを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
実験計画の各項目について、ほぼ計画通りに進捗している。
AMPA型グルタミン酸受容体のパルミトイル化に伴う興奮性シナプスの制御機構とその破綻から生じるてんかん発作に関して、生化学的解析、薬理学的解析、電気生理学的解析、イメージング等を組み合わせて計画通り進め、研究成果を取りまとめて公刊する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件)
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