研究課題
本研究では、ハダカデバネズミ(NMR)における老化・がん化耐性機構の個体レベルでの解明に向けて、遺伝子改変NMRの作製に必要な発生工学的技術基盤を整備することを目的とする。本年度はまず、マウスにおける非侵襲的採卵法の開発を行った。真社会性動物であるNMRは、コロニーの中で1匹の女王と1-3匹の王のみが繁殖に携わる。それ以外のワーカーは不妊であるが、女王から引き離すと女王化させることができる。しかし、現在までの観察の結果、女王から隔離し、ペア飼育しても必ずしも出産に至る訳ではないことが判明した。依然として複数回出産できる優秀な女王は限られるため、安楽死させることなく卵を採取することが重要となる。さらに採卵した個体にそのまま胚移植することができれば、使用個体数を削減することができる。そこで、NMRと体格が類似しているICRマウスに過排卵処理を施し、卵管からの生体灌流を試みた。その結果、複数個の卵を採取することに成功した。さらに侵襲度を低下させるため、経膣灌流を試みたところ、卵管からの灌流よりは数が少なかったものの、卵を採取することができた。また、性周期を決定するために膣スメア法およびELISAによる尿中プロゲステロン濃度測定法を検討した。膣スメア法について、ペア飼育している17匹のメスNMRの膣スメアを採取し、ギムザ染色により評価した。マウスと異なり、NMRは無毛のため、膣上で蒸留水をピペッティングする際に液体が流れ落ちてしまい、採取が困難であった。採取できたスメアを観察したところ、マウスと同様に有核細胞や無核角化細胞が見られたが、小型の多核のように見受けられる細胞が多く含まれているスメア像も見られた。他の染色法で何の細胞かを決定するとともに、麻酔下で行い、確実に汚染の少ないスメアを採取する。ELISA法については、尿中プロゲステロンの簡便な評価法を確立した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、同程度の体格であるICRマウスにおいて非侵襲的採卵法の開発を行い、生体から卵を得ることができた。また、膣スメア法についても不明細胞が混じっているものの、マウスと類似した細胞像を得ることに成功した。また、尿中プロゲステロンの測定法についても、通常のELISA法では2-3日かかり、その間に性周期が進行する恐れがあったが、簡便法により1日で測定することが可能となった。
膣スメア法およびELISAによる尿中プロゲステロン濃度測定法を組み合わせ、NMRの性周期を決定する。その後、交配をビデオ撮影にて確認し、上記非侵襲的採卵法を行うとともに採卵が困難であった場合には開腹後に採取する。非侵襲的採卵法については、膣に挿入するガラス管などを工夫することにより、さらなる採卵数の向上を目指す。採卵後の卵をマウス胚培養液やヒト胚培養液で培養することにより、培養方法を確立するとともに発生の様子を観察する。
必要な消耗品について複数業者から相見積もりを取ったところ、予定していた金額より安い価格で購入することができた。
次年度は研究の発展により、消耗品購入費が増加する可能性があるため、消耗品費に組み込んで使用する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
Nature Communications
巻: 7:11471 ページ: 1-9
10.1038/ncomms11471.
実験医学
巻: 34 (7) ページ: 181-186
http://www.igm.hokudai.ac.jp/debanezumi/
http://www.igm.hokudai.ac.jp/