研究課題
本研究で我々は、上皮細胞の宿主免疫応答を抑制するospIに着目し、宿主免疫担当細胞による赤痢菌排除機構回避におけるospIの役割に関して、生理的な意義を明らかにすることを試みた。上皮細胞内の宿主免疫応答を抑制できないospI欠損株を用いて、モルモットとマウスの赤痢菌感染動物モデル実験を行なった。その結果、ospIが、個体レベルにおいても炎症抑制性のエフェクターとして機能すること、上皮細胞でのFas発現量を抑制しγδT細胞による上皮細胞の細胞死を抑えることにより、赤痢菌の定着増殖に寄与していることを示した。盲腸上皮細胞の剥離が進んでいない赤痢菌投与後4時間と16時間にて、盲腸組織内生菌数を測定し、野生型とospI欠損株を比較した。その結果、投与後16時間後のospI欠損株の生菌数は、野生型と比べて顕著に減少した。モルモット同様に、感染部位で上皮層の破壊と好中球、単球系細胞の集積が認められる。モルモット赤痢菌感染モデルにおいても、赤痢菌感染盲腸組織におけるFas、FasLのmRNA発現量上昇が認められ、ospI欠損株感染盲腸組織におけるFasLのmRNA発現量上昇は、野生型感染と比較して高値を示しており、赤痢菌動物感染モデルにおいてもFas-FasLによる細胞死は、ospI欠損株感染組織で増強していることが予想された。次に、Fasブロック抗体を用いてFasL-Fas経路を阻害した場合の効果を調べた。γδ陽性細胞によるospI欠損株の細胞内菌数の減少は野生型と同程度まで回復した。以上の結果から、ospIは、赤痢菌が感染した上皮細胞で生じるNF-kB活性化を抑制することで、上皮細胞由来のサイトカイン、ケモカインの発現を抑えることで、γδ陽性細胞の集積を抑える一方で上皮細胞のFas発現を抑えて、上皮細胞の細胞死を抑制することで、赤痢菌の増殖定着に寄与していると考えられた。
すべて 2020
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