本研究プロジェクトではこれまでに外来遺伝子ノックインマウス、コンディショナルノックアウトマウスの高効率な作出手法を相次いで開発してきた。医学生物学分野で残る重要な遺伝子改変マウスは、ヒト疾患変異を時期・臓器・細胞種特異に発現誘導または抑制可能なコンディショナルノックインマウスである。いくつかのコンディショナルノックイン戦略が考案されてきたものの、スプライシング異常とnonsense-mediated decayによる遺伝子ノックアウトが誘導されてしまう事、あるいは遺伝子発現の不完全制御による発現量減少等の根本的な問題を抱えていた。最終年度はこれらの問題を克服するコンディショナルノックイン戦略と、これを実装したコンディショナルノックインマウス作製のための強力なノックイン手法を開発した。新たなコンディショナルノックイン戦略は発現誘導後もそれ以前と同等の遺伝子発現レベルを実現するが、そのために5-10kb程度の複雑な長鎖DNAのノックインを必要とする。CRISPRによる受精卵直接改変でこのような長鎖DNAノックインを作出することは極めて困難である。本研究では遺伝子スクリーニングから得られたノックインエンハンサーを用いることにより、これを極めて高効率に実現した。さらに3系統のヒト疾患コンディショナルノックインマウスを作出し、in vivoで任意の時期に任意の臓器・細胞種でヒト疾患変異を正常な遺伝子発現レベルで誘導可能であることを明らかにした。この新たなコンディショナルノックイン戦略と強力なノックイン手法は、ヒト疾患の忠実なモデルマウスの作出とその分子細胞基盤の解明のための強力なツールとなる。本研究成果は現在論文投稿中である
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