ALSは神経原性の筋萎縮をきたす神経変性疾患である。申請者はALS様病態を自然発症する新規劣性突然変異マウスを発見し、その原因遺伝子がChmp2A遺伝子のミスセンス点突然変異(c.519T > C、p.L173P)であることを見つけた。一方、CHMP2AのファミリーであるCHMP2Bは神経変性疾患の原因遺伝子として報告されている。特にヒトのALS(ALS-D)患者においてこの遺伝子のミスセンス変異が多数報告されている(p.D148Y、p.Q165X およびp.Q206H等)。Chmp2AおよびChmp2Bタンパク質はESCRT-IIIを形成し、その機能は多腔性エンドソーム(MVB)を形成し、ユビキチン化を受けた不要な膜タンパク質を分解する働きがある。Chmp2ファミリーの異常により、神経細胞での異常なタンパク質の蓄積がALSの発症に関与していることが予想された。これまでにChmp2AKOマウスおよびChmp2BQ206H遺伝子改変マウスを作製しており、Chmp2AKOは胎生致死、Chmp2BQ206Hホモ変異マウス正常であることを明らかにしていた。 今年度はゲノム編集技術を用いてChmp2AおよびChmp2Bの各種遺伝子改変マウスを作製した。それに先駆け、遺伝子改変マウスの簡便な作製法としてi-GONAD法を開発した。i-GONAD法によりChmp2B KO、Chmp2BD148YKI 、Chmp2BQ165X KIマウスおよびChmp2AL173PKIの作製に成功した。Chmp2B遺伝子の変異マウスはいずれも正常な表現型を示し、ALS用の表現型を示すものはいなかった。自然突然変異として見つけた原因遺伝子を導入したChmp2AL173PKIマウスは生後2週頃より明らかに後肢を引きずるような表現型を示し、正常個体に比べ低体重で1ヶ月程度で死亡することが明らかとなった。
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