本研究では、Ras遺伝子変異以降の発癌過程に関与する分子の探索と機能解析を、迅速化した動物実験系の構築を目指してきた。 肺発癌については、従来の発癌モデルの常識を覆し、Rasドライバー肺発癌ではA/J系統はB6系統と比較して抑制遺伝因子が優位であること実証し、ポストRas変異にフォーカス可能なモデル動物(条件的に誘導可能な癌型K-Rasドライバー癌モデル動物)を複数系統化し、QTL解析を実施した。 結果、A/J系統由来の遺伝子座がB6系統由来の遺伝子座に対して有意にRasドライバー発癌を促進する9遺伝子座、B6系統由来の遺伝子座がA/J系統由来の遺伝子座に対して有意にRasドライバー発癌を促進する6遺伝子座を見出した。これらには、発癌過程に影響が予測される遺伝子ヴァリアント、①Mature miRNA variant、②Splice region variant、③Missense variant、④NMD transcript variant、⑤Inframe variant 、⑥3-5-UT variant などがある662遺伝子が含まれていた。さらに文検検索により、癌細胞の増殖、細胞死、細胞運動、臨床データの癌悪性度との関連付けして、72遺伝子を責任遺伝子として候補することができた。 また、独自の条件的に誘導可能な癌型K-Rasドライバー癌モデル動物とウィルスベクターによる臓器・時期特異的な遺伝子の発現と編集を駆使することでin vivo解析系の構築を進め、候補遺伝子の機能判定に要する時間を大幅に短縮(約8週)することが可能な動物実験系を確立しつつある。これによって、72遺伝子を対象に、Rasシグナル強度に影響して、腫瘍発生数や悪性度を変動させる遺伝子の探索と機能解析を迅速に行い、最終的に、ヒトがん治療における新規な分子標的の同定や治療法の開発に貢献する。
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