ES細胞の樹立と維持は、培養条件および遺伝的背景(マウス系統)に強く依存することが知られているが、その原因は不明のままである。本研究において、血清条件下で自己複製が可能なマウス系統(129系統が代表)と、そうでないマウス系統(NOD系統など)を比較し、129系統における自己複製の安定性の要因について解析を行い、以下のことが判明した。 129系統、NOD系統およびF1に由来するES細胞を、2i培養法により樹立し遺伝子発現解析によって転写因子Tfcp2l1を同定した。このTfcp2l1は、129-およびF1-ESCのみで高い発現を維持できた。すなわち、129系統が寄与した遺伝的背景をもつESCにおいて発現が維持できることが明らかとなった。NOD-ESCにおいて、Tfcp2l1安定発現株を樹立すると血清条件下で長期間自己複製を維持できた。胚盤胞注入実験により、このESCはキメラ寄与能を維持できていることも確認できた。2iにより樹立したESCにおいてTfcp2l1は血清条件下における自己複製を支持できることが示された。さらに、NOD由来胚盤胞へTfcp2l1を導入すると血清条件下において、阻害剤フリーな培養条件でES細胞株を樹立することができた。また、Tfcp2l1の安定発現株において、野生型NOD-ESCでは減弱が認められたLIF-Stat3経路の活性が亢進していた。 以上のことから、Tfcp2l1によりLIF-Stat3経路の活性化が、129-ESCと同等に活性化できることがナイーブ型ESCの樹立と維持に重要であることが示唆された。上記の一連の研究成果について、現在論文投稿準備を進めている。
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