研究課題/領域番号 |
16K07107
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
舟山 亮 東北大学, 医学系研究科, 助教 (20452295)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シトルリン化 / PADI2 / 大腸がん / 翻訳後修飾 |
研究実績の概要 |
PADI2はタンパク質のアルギニン残基をシトルリン残基へと変換する酵素である。これまでの解析で、PADI2は大腸正常組織の上皮細胞に高発現するが、がん化の過程で発現量が低下することを明らかにした。そこで平成29年度は、大腸がんにおけるPADI2の役割を解明することを目的として研究を進めた。その結果、PADI2によるタンパク質のシトルリン化は細胞の増殖を抑制することが明らかになったので、これを論文発表した。 大腸の正常組織に比べて腫瘍組織ではPADI2遺伝子の発現量が低下していた。そこで、PADI2によるタンパク質のシトルリン化は正常細胞の腫瘍形成を抑制する、と考えた。この仮説を調べるために、大腸がん細胞株HCT 116にPADI2遺伝子を強制発現させて、細胞の増殖能を調べた。その結果、PADI2の発現は細胞内のシトルリン化タンパク質量を増加させるのと同時に細胞周期の進行をG1期で停止させること、この効果は酵素活性のないPADI2変異体を導入したときには見られないことが分かった。これらの結果から、PADI2によるタンパク質のシトルリン化は細胞の増殖を抑制すると考えられた。 次に、大腸正常組織でPADI2によりシトルリン化される基質タンパク質を調べた。大腸組織からタンパク質を抽出し、タンパク質中のシトルリン残基を認識する抗体を用いてウエスタンブロット解析を行った。その結果、大腸組織に複数のシトルリン化タンパク質が存在することが明らかになった。これらのタンパク質を同定するためにタンパク質中のシトルリン残基を特異的にビオチン標識する実験系を構築した。平成30年度は、この実験系を用いてPADI2の基質タンパク質を同定し、タンパク質のシトルリン化が細胞周期を制御する分子機構を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸の正常組織と腫瘍組織のトランスクリプトーム解析を行い、正常組織に比べて腫瘍組織でmRNA発現量が低下している遺伝子としてPADI2を同定した。その後のウエスタンブロット解析と免疫組織染色の結果、PADI2タンパク質は正常な大腸の上皮細胞で高発現しているが、腫瘍細胞では発現が低下していることを明らかにした。我々が観察した以上の結果とよく一致した解析結果を、最近、海外のグループが発表した。しかし、PADI2遺伝子の発現低下が大腸上皮細胞のがん化に与える影響は不明であった。 そこで我々は、PADI2によるタンパク質のシトルリン化は正常細胞のがん化を抑制していると考え、この仮説を検証した。これまでに調べた5つの大腸がん細胞株はPADI2を発現していなかったので、大腸がん細胞株にPADI2を強制発現させて、細胞の増殖能に与える影響を解析した。その結果、PADI2によるタンパク質のシトルリン化は、細胞周期をG1期で停止させることで細胞の増殖を抑制することが明らかになった。これらの結果は、PADI2によるタンパク質のシトルリン化は、正常細胞のがん化を抑制することを示唆している。これはPADI2が大腸がん細胞の増殖を抑制することを示したはじめての成果であり、この研究成果を論文発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究を推進するためには、大腸組織でPADI2によりシトルリン化される基質タンパク質を同定することが重要である。PADI2を強制発現した大腸がん細胞株ではタンパク質のシトルリン修飾量が増加していた。また、PADI2を高発現する大腸正常組織では、腫瘍組織よりもシトルリン修飾量が多く観察された。これらの結果は、大腸上皮細胞でPADI2によるタンパク質のシトルリン化が起きていることを示している。しかし、大腸組織でシトルリン化されることが知られている基質タンパク質はまだない。PADI2の基質タンパク質を同定できれば、シトルリン化がどのように細胞の増殖を抑制するのか、その分子機構の解明へとつながる。そこで平成30年度には、PADI2の基質タンパク質を同定し、細胞周期制御におけるその役割を解明する。 まず、PADI2を強制発現した大腸がん細胞株を用いて、これまでに確立したシトルリン化タンパク質のビオチン標識実験を行う。ビオチン標識したタンパク質をアビジンビーズで濃縮し、質量分析を行って、シトルリン化されるタンパク質とその修飾部位を明らかにする。同様の実験を、ヒト大腸正常組織を用いて行う。大腸組織検体の解析は東北大学病院の研究者と協力して推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:予定していたPADI2の基質タンパク質の解析にかかる経費を次年度に使用することにしたため。
使用計画:PADI2の基質であるシトルリン化タンパク質の濃縮、質量分析、および組換えタンパク質作製などの生化学的解析に使用する。また、大腸がん細胞株の細胞培養に使用する培地やプラスチックウェアの購入に使用する。
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