研究実績の概要 |
大腸の正常組織とがん組織で発現パターンが変化する遺伝子を探索し、がん組織でmRNA発現量が低下する遺伝子としてPADI2を同定した。PADI2はタンパク質に作用し、アルギニン残基をシトルリン残基へと変換する酵素である。これまでの解析で、1)PADI2は大腸正常組織の上皮細胞に高発現するが、がん化の過程で発現量が低下すること、2)大腸がん細胞株にPADI2遺伝子を導入して過剰発現させるとシトルリン化活性依存的に細胞の増殖能が低下すること、を明らかにした。正常な大腸上皮細胞では、PADI2が細胞の異常な増殖を抑制している可能性が考えられ、これらの成果を論文発表した(Funayama et al., 2017, Cancer Sci)。 平成30年度は、PADI2が細胞の増殖を制御する分子機構を解明するために、PADI2によってシトルリン化される基質タンパク質を探索した。PADI2を過剰発現する大腸癌細胞株およびPADI2を高発現する大腸正常組織には、シトルリン化された複数のタンパク質が存在することが抗シトルリン抗体を用いたウエスタンブロット解析により明らかになった。そこでタンパク質のシトルリン残基を選択的に標識できるphenylglyoxal試薬を用いて、シトルリン化タンパク質をビオチン標識する実験を実施した。その結果、PADI2を過剰発現する大腸癌細胞株で、シトルリン化タンパク質を効率よくビオチン標識することに成功した。また、PADI2を高発現する大腸正常組織でも、ビオチン標識された複数のタンパク質バンドを見出した。現在、ストレプトアビジンビーズを用いてビオチン標識シトルリン化タンパク質を濃縮する実験条件の最適化を行っている。引き続き、PADI2によりシトルリン化される基質タンパク質の同定を進め、PADI2が細胞の増殖を制御する分子機構を解明する。
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