本研究では、癌微小環境および癌細胞におけるBACH1の機能の2つの面からBACH1の癌細胞における作用およびその機序を探ることを目的とした。 癌細胞によって悪性化に転じた線維芽細胞は「cancer-associated fibroblasts (CAFs)」と呼ばれ、がん細胞の増殖を助ける。Bach1欠損マウス胎児線維芽細胞(MEFs)もしくは野生型MEFsと癌細胞の共培養では、Bach1欠損MEFsが癌細胞の増殖を促進させる。そこで、Bach1欠失超免疫不全マウスにおけるヒト癌細胞移植を通してBach1欠損線維芽細胞の癌細胞への効果を調べた。しかし、Bach1欠損超免疫不全マウスのへ移植癌細胞は、野生型超免疫不全マウスとの比較において、その増殖に変化は無く、強力なCAFs機能はみられなかった。 一方、膵癌細胞においてBACH1をノックダウンすると、細胞同士の結合が密になり、過剰発現させると逆に細胞同士の結合が疎になることが観察された。また、BACH1ノックダウン時の遺伝子発現変化(RNA-seq)およびBACH1のゲノム結合部位同定(ChIP-seq)の結果は、BACH1が上皮系遺伝子発現の抑制を担っていることが見出された。さらに、超免疫不全マウスへのBACH1欠損ヒト膵癌細胞株の同所移植実験から、BACH1が膵癌の転移を促進することが示された。BACH1抗体による膵癌の免疫組織化学を行ったところ、BACH1高発現患者が低発現に比べ予後不良であることが判明した。The cancer genome atlas (TCGA)データベースの情報から、RNA量においてもBACH1高発現膵癌患者の予後不良が示された。まとめると、BACH1は膵癌細胞において、上皮系遺伝子の発現を抑制することで、腫瘍の転移を促進させ、これが予後不良の一因となっていると考えられた。
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