研究課題
日本における胃がん罹患率は高く、遠隔転移をともなう悪性化進展した胃がん患者の生存率は低い。一方で、悪性化胃がんに対する有効な治療薬はなく、胃がんの悪性化進展機構の本体解明は、将来の新規胃がん予防・治療戦略の確立に大きく貢献が期待される。本研究課題では、これまでに研究代表者らが作製したヒト胃がん発生を分子レベルから再現したマウスモデル(Ganマウス)を基盤として、新たにKras(G12D)、Tgfbr2(-/-)、Trp53(R270H)などのドライバー遺伝子変異を導入し、悪性化進展マウスモデルを開発する。さらに、新規モデルを用いて遺伝子変異の蓄積における腫瘍細胞の形質変化と、それにともなう微小環境の形成機構を明らかにし、その相互作用による転移再発への悪性化誘導機構を明らかにする。GanマウスはWntシグナル活性化とCOX-2依存的な炎症反応の相互作用により、腺管型の早期胃がんを発生する。この腫瘍細胞に新たなドライバー変異を導入するため、平成29年度は、Cludin2(Cldn2)およびCldn18遺伝子プロモーターを用いたCreERT2トランスジェニックマウスの開発を実施した。これまでの研究で、Cldn2は胃炎を発症した胃粘膜上皮特異的に、Cldn18は正常胃粘膜上皮特異的に発現することを明らかにしている。Cldn2-CreERのファウンダーマウスは胃炎モデル(K19-C2mE)およびtdTomatoレポーターマウスとの交配実験を実施し、胃炎病変の過形成上皮細胞でtdTomato発現を確認した。また、Cldn18-CreERのファウンダーマウスもtdTomatoレポーターマウスと交配実験を実施し、胃粘膜上皮でのtdTomato発現誘導を確認した。今後、これらのマウスを用いて新規マウスモデルの開発を実施する。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、胃粘膜上皮細胞特異的にCreERT2を発現するマウス系統を確立し、複数のドライバー遺伝子コンディショナル変異マウスとの交配により、新規胃がん悪性化モデルを開発し、微小環境形成を含む胃がん悪性化の分子機構を明らかにすることを重要な目的としている。胃粘膜上皮細胞は、幹細胞の制御や分化増殖に関する分子機構が明らかになっておらず、そのために胃がん研究に有用なCre発現マウスが未だ開発されていない。そのため、本研究課題で推進するCldn2およびCldn18-CreERマウスの開発は、本研究課題の重要な位置付けとなる。とくに、正常胃粘膜上皮で発現するCldn18と、胃炎にともなう過形成上皮細胞で誘導されるCldn2のプロモーターに制御されるCreERマウスを用いた比較研究は、炎症性微小環境の影響の解析にも有用な研究資源となる。これまでに、それぞれのファウンダーマウスの作製が終わっており、一部の系統でレポーターであるtdTomatoの発現誘導を確認しており、CreERマウスの作製は計画に沿って推進できている。また、GanマウスとKras(G12D)やTgfbr2(flox/flox)マウスとの交配も、CreERマウス系統の最終選択を待たずに同時に進めている。そのため、平成30年度には、新規交配で得られるマウスに対するタモキシフェン投与により、当初計画した悪性化胃がんマウスモデル、および炎症依存的な胃がん悪性化モデルの開発が計画通りに推進され、解析の推進が期待される。以上の結果により、本研究課題の進捗は計画に沿って順調に進められていると判断する。
H29年度までに作製したCldn2-CreERT2およびCldn18-CreERT2マウスの複数系統のファウンダーから、レポーター遺伝子tdTomatoの顕著な発現誘導を示す系統を1系統づつ選択する。同時にCreERT2マウスとGanマウス、Kras(G12D)、Trp53(R270H)、Tgfbr2(flox/flox)マウスとの交配を継続し、Cldn2およびCldn18-CreERT2 Ganマウスにそれぞれのドライバー遺伝子のコンディショナル遺伝子を有する系統を選択する。最終的に開発した新規マウスの10週齢前後からタモキシフェン投与(1回/週)を5週間から10週間実施し、Wnt活性化と炎症反応に加えて、各ドライバー遺伝子変異による胃がん症状の悪性化形質について、病理組織学的に解析する。とくに粘膜下浸潤、脈管浸潤、および上皮間葉転換等の有無に着目して解析する。また、遠隔転移の有無について周囲リンパ節、肝臓、肺などを中心に病理組織学的に観察する。また、それぞれのマウスに発生した胃腫瘍から採取した腫瘍細胞をマトリゲルにて3次元培養し、オルガノイドを樹立する。オルガノイド培養を用いてEdU標識による細胞分裂速度やオルガノイドの形態観察による分岐能などの解析を実施する他、各遺伝子型マウスで胃がん細胞の自然転移がみられない場合は、オルガノイドの同所移植や脾臓への移植実験を実施し、それぞれの転移能の獲得や微小環境形成誘導機構を明らかにする。以上の遺伝子変異の組み合わせに起因した悪性化形質の獲得について、Cldn2とCldn18のそれぞれでCreERを誘導した際の比較解析を実施する。これにより、炎症依存的な過形成病変が悪性化形質獲得の前駆病変として関与しているか明らかにする。
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