本研究では、日本人で罹患率の高い胃がんの悪性化機構を個体レベルで明らかにすることを目的とし、新規マウスモデルの開発とそれを用いた解析を推進している。得られる研究成果は新規治療薬の開発につながることが期待される。H30年度は以下の研究を実施した。 (1)新規胃粘膜上皮特異的Creマウス開発:胃粘膜細胞特異的にCreERを発現させるため、Claudin2およびClaudin18遺伝子(Cldn2、Cldn18)のプロモーター領域を用いたトランスジェニックマウスの系統樹立に成功した。Cldn2は胃炎組織特異的に発現誘導され、Cldn18は正常胃粘膜上皮で持続的に発現するため、用途にしたがって異なる発現制御が可能となる。現在、それぞれ炎症をともなう胃がんモデルGanマウスとの交配を進めている。 また、CreER遺伝子を内在性のCldn2およびCldn18遺伝子座に挿入したノックインマウスも作製し、TdTomato(赤色蛍光)モニターマウス及び胃炎発生K19-C2mEマウス等との交配実験により、Cldn2-CreER(KI)マウスでは、胃炎組織粘膜特的なCreER発現が確認できた。 (2)悪性化胃がんモデルマウスの開発:上記で作製したマウスを、胃がんモデルのGanマウスおよび、大腸がんモデルの解析から悪性化への関与が指摘されるTgfbr2およびTrp53 (R270H)遺伝子コンディショナル変異マウスとの交配を行なった。これまでにCldn18-CreER Gan Tgfbr2 cKO、およびCldn18-CreER Gan Trp53(R270H) cKOマウスの病理解析を実施した。その結果、TGF-betaシグナル遮断および変異型p53発現によっても、粘膜下浸潤などの悪性化は認められず、胃がん悪性化にはさらに遺伝子変異の蓄積が必要と考えられた。
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