研究課題/領域番号 |
16K07113
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
蝉 克憲 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (90633058)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | がん / エピゲノム |
研究実績の概要 |
DNAメチル化修飾は、遺伝子発現調節機構として知られるエピジェネティクス修飾の1つであるが、RNAも同様にメチル化を受けることが知られている。近年、RNAメチル化がmRNAの発現量調節やスプライシングを介した機能調節に関与することが明らかとなりつつあるが、その詳細なメカニズムや、標的となるmRNAには未だ不明な点が多い。申請者は、がんにおけるRNAメチル化の役割を探索するとともに、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。本年度は、RNAメチル化酵素をノックダウンするためのshRNA発現レンチウイルスベクターの構築とRNAメチル化を検出する手法の検討を行った。作成したレンチウイルスベクターを用いて複数のヒトがん細胞株においてRNAメチル化酵素のノックダウンを行い、増殖性や腫瘍形成能に影響が見られるがん細胞株の同定を行った結果、いくつかのがん細胞株において腫瘍形成能に顕著な差が認められた。さらに、我々はがん細胞のリプログラミングに抗がん剤を投与することで、通常起こらないがん細胞のエピゲノム変化が誘導されることを明らかにした。また、ある種のヒトがん細胞においては、抗がん剤投与に伴う形質の変化により、抗がん剤耐性を獲得することが報告されている。これらの点から、抗がん剤投与時のRNAメチル化の標的遺伝子の同定や網羅的発現解析により抗がん剤耐性のメカニズムを明らかにすることができる可能性が示唆された。現在、抗がん剤投与時のRNA-seqデータから、スプライシングパターンの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトRNAメチル化酵素をノックダウン可能なshRNA発現レンチウイルスを作成し、いくつかのヒトがん細胞において、in vitro, in vivoでの増殖試験を行った結果、興味深いことに、in vitroにおいてRNAメチル化酵素ノックダウン時に増殖に明らかな影響が認められなかった細胞株において、in vivoでの腫瘍形成能に顕著な差が認められることが明らかとなった。この細胞株において、コントロール群、およびノックダウン群からRNAサンプルを回収しており、RNAメチル化レベルの比較および発現解析を行っている。また、がん細胞株を追加し、in vitro, in vivoでの増殖・腫瘍形成能試験を行うと共に、レンチウイルスを用いないDox-inducibleのshRNA発現誘導系の確立を進めている。さらに、抗がん剤投与時に、がん細胞に初期化因子を強制発現させることで、リプログラミングに伴う遺伝子発現の誘導が観察された。この結果は、がん遺伝子の下流で維持されているエピゲノム、転写ネットワークががん細胞の個性維持に重要であることを示唆している。現在、RNA-seqによる網羅的発現解析から、抗がん剤投与により、スプライシングパターンの変化が認められる遺伝子群の同定を行うための解析環境の構築を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
レンチウイルスを用いた系では、細胞毎のノックダウン効率に若干の差が認められることから、ヒトAAVS1遺伝子座にドキシサイクリン存在下でshRNAを発現誘導可能なカセットを導入したがん細胞株の樹立後に、再度in vivoでの腫瘍形成能の再現性を取ると共に、発現解析からスプライシングパターンや発現量に顕著な差が認められる遺伝子群の同定を行う。また、同様の検討を他のがん細胞種でも行うことにより、RNAメチル化の標的となる遺伝子の特異性について検討を行う。スプライシングパターンの解析環境の構築後は、抗がん剤耐性を獲得した細胞株の樹立を行い、獲得前後でスプライシングパターンが変化した遺伝子の同定を試みるとともに、薬剤耐性獲得に寄与するメカニズムの解析を行う。
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