神経線維腫症1型(NF1)は神経線維種や学習障害をはじめとする、多彩な病態を示す遺伝性疾患である。その原因遺伝子産物Neurofibrominは、Ras-GAP相同領域を有し、その欠損によるRasを介した細胞内シグナル伝達異常は、神経系細胞増殖と分化異常による悪性化を誘発すると考えられるが、その詳細な分子機序や病態マーカーおよび治療標的は報告されていない。NF1病態発現機構解明を目的として、NF1発現抑制によるNF1病態モデル細胞を構築し、細胞内異常発現分子群を融合プロテオミクスにより網羅的に解析した結果、Translationally controlled tumor protein (TCTP)を中心とした新規NF1病態関連分子ネットワークがNF1腫瘍の発症・進行に関与すると考えられた。また、TCTPは翻訳伸長因子複合体(EF1A1、EF1A2、EF1B、EF1D、EF1G、VARS)と有意に結合していることが判明した。特に、TCTPはEF1A2との特異的相互作用をコアとした翻訳伸長因子群と複合体を形成することによって、NF1腫瘍細胞内のタンパク質翻訳を促進していることが示唆された。また、siRNAを用いたEF1A2の阻害により、MPNST細胞の増殖能、およびタンパク質の翻訳活性が低下した。さらに、EF1A2の阻害によりタンパク質翻訳、細胞周期などに関連する分子群の発現が減少することをプロテオーム解析によって見出した。TCTPに結合するアーテスネートはTCTP-EF1A2の相互作用を阻害し、翻訳伸長反応を抑制することが判明した。以上のことから、TCTPはEF1A2と特異的に相互作用し、EF1A2を主体したタンパク質翻訳伸長反応を活性化することによって、NF1腫瘍の病態を進行させていることが考えられた。その機能阻害がNF1腫瘍の治療標的として有効であることが示唆された。
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