研究課題/領域番号 |
16K07119
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
寺林 健 大分大学, 医学部, 助教 (40452429)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 上皮細胞極性 / 上皮細胞恒常性 / 細胞間接着 / ErbB受容体ファミリー / チロシンキナーゼ |
研究実績の概要 |
本研究では、これまでに全く注目されてこなった非リン酸化型ErbB受容体に着目し、細胞間接着形成における機能とその制御分子機構、さらに同機構の破綻が癌悪性化に対してどのように寄与するのかを明らかにすることを目的としている。
平成28年度は非リン酸化型ErbB3によるE-cadherinの細胞膜輸送について検討を行った。細胞間接着の崩壊に伴い、ErbB3はゴルジ体に集積した。このとき、E-cadherinもゴルジ体に局在しており、細胞間接着の再形成に際してErbB3とE-cadherinは複合体を形成し、共に細胞膜へと輸送されるのが観察された。さらに、非リン酸化型ErbB3が活性を制御するキナーゼ群についても検討を行ったところ、セリン/スレオニンキナーゼがゴルジ体に局在し、細胞間接着の喪失に伴いErbB3並びにE-cadherinと共局在すること、このキナーゼをノックダウンした細胞では、細胞間接着再構成の遅延と、細胞膜上でのE-cadherinの局在量の減少が観察された。さらに、このキナーゼはE-cadherinの細胞膜上への輸送に関与する蛋白質の1つをリン酸化すること、このリン酸化がE-cadherinの膜輸送に重要な役割を果たしていることも明らかにした。また、ErbB3遺伝子には悪性度の高い腫瘍で変異が見られる。このことから腫瘍点変異を有する変異体を作製し、それらの機能を評価したところ、腫瘍変異体は野生型が活性化するキナーゼ群を活性化することができず、さらに、細胞間接着再形成に遅延をきたすことが確認できた。これらの結果から、非リン酸化型ErbB3が上皮細胞の恒常性維持、並びに同機構の破綻が癌の悪性化に非常に重要な役割を果たしていることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、非リン酸化型ErbB3について細胞レベルでの解析を行うことで、細胞間接着形成制御機構や、同機構の上皮細胞極性における重要性、さらに同機構の破綻が癌悪性化に与える効果について明らかにすることを目的としている。28年度においては、研究計画に記した研究内容をほぼ実施し、上述の研究成果を得るに至った。当初予定していた非リン酸化型ErbB3結合蛋白質探索では有望な候補蛋白質を同定することが出来なかったものの、腫瘍変異型ErbB3の機能解析を新たに追加することで、非リン酸化型ErbB3による細胞間接着制御機構の一端とその重要性を垣間見ることができた。このことから、平成28年度の研究の進捗はおおむね順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果を受けて、基本的には当初の研究計画に沿った形で今後の研究を進めて行く。これとともに、新たに追加した腫瘍変異型ErbB3の機能解析についても、腫瘍変異型ErbB3が細胞間接着形成・維持に及ぼす効果について野生型ErbB3と比較しながらより詳細に検討を行っていく予定である。現在までに、非リン酸化型ErbB3による細胞間接着制御機構の一端を垣間見ることが出来たが、同機構の破綻が癌悪性化に与える影響を鑑みると、同機構の全容を明らかにすることは非常に重要なテーマである。そのため、非リン酸化型ErbB3結合蛋白質の同定は不可欠であり、当初の研究計画に記したように、結合蛋白質探索の手法や条件を変更することで引き続き探索を継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった抗体が出荷停止となり、代替品も年度内の納品が困難であったため、若干の繰越金が発生した。ただ、研究計画の根幹に関わるものではないため、大きな問題は生じていない。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に購入予定であった物品は、平成29年度に改めて発注、購入する予定である。平成29年度も培養細胞を用いた実験を計画しており、細胞培養関連試薬や一般試薬、消耗品の購入を予定している。このため、使用に関して変更はない。
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