研究課題
最近我々は、腫瘍不均一性の原因となる腫瘍内低酸素環境によりHIF-1を介し糖転移酵素ST6GalNAc-I(ST6)の発現が誘導され、がん糖鎖sialyl-Tn(sTn)糖鎖抗原の発現が誘導されることを示した。また、近年、がんには遺伝子の突然変異に加えて、エピゲノムの異常が関連することが多数報告されている。そこで、今年度はsTn糖鎖抗原を発現したがん細胞を用いゲノム/エピゲノム解析を中心に行い、遺伝子発現への影響について検討を行なった。Infinium HumanMethylation450 BeadChipを用い、ゲノム中の約48万箇所のCpG配列のメチル化を網羅的な解析を行った。その結果、sTn糖鎖抗原発現がん細胞では、発現していない細胞に比べ、中等度のレベルのメチル化が減少してはいたが、全体として大きな差は得られなかった。次に、個々のメチル化変化の機能的な意味合いや、遺伝子機能との相関について検討を行った。その結果、全体の傾向としてsTn糖鎖抗原発現がん細胞では、細胞骨格や、細胞内シグナルに関わる遺伝子の発現に影響があることがわかった。また、変化が認められた分子の中で、sTn糖鎖抗原発現がん細胞では、tumor suppressorとして知られているForkhead box protein O1 (FOXO1)のメチル化の亢進、mRNAの発現の低下が認められた。また、FOXOは、PI3K-Aktシグナルにより負に制御されていることが知られている。そこで、Akt(473)のリン酸化についても検討を行った。その結果、sTn糖鎖抗原発現がん細胞ではAkt(473)のリン酸化の亢進が認められた。以上の結果より、sTn糖鎖抗原発現がん細胞ではFOXO1の発現の低下は、メチル化、及びAktのリン酸化の亢進の両者から調節を受けている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム/エピゲノム解析より、がん糖鎖により制御を受ける可能性のあるがん抑制分子を同定することができた。
FOXO1の遺伝子発現には影響があることが分かったので、FOXO1タンパクの発現にも影響があるか検討を行う。また、FOXO1によって調節されている分子の発現についても検討を行う。今年度の網羅的なゲノム/エピゲノム解析より、FOXO1以外にも、がん細胞では顕著な影響を受けることがわかっている細胞周期の G1/S期に関わる遺伝子の変化が認められた。また、実際に、sTn糖鎖抗原発現がん細胞では、通常の細胞培養時でも細胞増殖の遅延が認められている。そこで、次年度の研究では、sTn糖鎖抗原発現がん細胞を使用して、細胞周期に影響を与える分子の同定を行い、さらに、細胞周期についても検討を行う。
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