ゲノム・エピゲノム解析より、さらにメチル化と遺伝子発現量が一致する分子について検討を行なった。その結果、脂質代謝に関係する酵素である酵素であるPNPLA3や、PLA2G4Aのメチル化の低下、および遺伝子発現の亢進が認められた。また、sialyl-Tnの発現により、上皮間葉転換転換に関わる分子であるSOX4のメチル化の低下、および遺伝子発現の亢進も認められた。一方で、がん転移の増殖や転移抑制に関与するIL-18はメチル化の亢進、遺伝子発現の低下が認められ、sialyl-Tn糖鎖抗原の発現は、がんの悪性化に関与していることが示唆された。 次に、sialyl-Tnを発現したがん細胞で細胞内の糖代謝に影響があるかキャピラリー電気泳動ー質量分析計(CE/MS)を用い検証を行った。その結果、mock細胞に比べ、sialyl-Tnを発現したがん細胞ではペントースリン酸回路とそれに続く核酸合成経路の活性化、脂肪酸の構成成分となるアセチルCoA、オンコメタボライトである2-ヒドロキシグルタル酸 (2-HG)の産生が亢進していることを見出した。2-HGは、 TETを抑制するという報告があることから、ゲノムワイドな高メチル化が起きているか検討を行ったが、ゲノム全体のDNAメチル化にはsialyl-Tn糖鎖抗原発現による影響は認められなかった。 以上より、がん細胞におけるsialyl-Tn糖鎖の発現は、がん細胞に酸化ストレス応答転写因子の発現を亢進させ、さらに細胞内代謝をペントースリン酸回路に迂回させることにより変化させ、がんの悪性化に影響を与える機能分子であることが示唆された。
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