2年以下の生存しか望めない膠芽腫において、その幹細胞(Glioma stem cells:GSC)を標的とした新しい治療戦略が期待されている。GSCの自己複製、未分化能を担保するニッチの阻害はGSCの根絶に繋がると考えられているが、ニッチの特性はまだ十分に解明されていない。これまでの研究で、同一腫瘍内のGSCには酸素への依存性が異なる分画が存在することを見出し、そのことからニッチにも異なる性質のものが存在する可能性があると考えた。本研究では、GSCとニッチのライブイメージングを行い、ニッチが形成される条件、ニッチの種類、性質及び構成成分を明らかにすることを目標とした。さらに、GSCとニッチの相互作用を分子レベルで解析し、GSCの自己複製を阻害しうるニッチ関連因子の同定を目指した。
最終年度であった本年度では血管性ニッチに関して主に制御候補因子の機能解析を行い、低酸素ニッチについてはその分子基盤の解析を遂行した。血管性ニッチについては前年度同定した制御因子の候補とヒト膠芽腫の各種遺伝子の局在別発現様式において血管近傍に発現が高い因子に注目し、共通している因子を絞り込んだ。阻害剤が開発されている分子については薬理学的な機能阻害を行い、阻害剤が開発されていない因子についてはCRISPR/CAS9を用いたゲノム編集実験を施行した。その結果、その機能阻害によって腫瘍内の異常血管と共にGSCも有意に減少する因子(代謝関連酵素A)の同定に成功した。低酸素ニッチの解析では5%以下の酸素濃度下で蛍光を放つインジケーターを用いて、in vitro及び脳切片における低酸素領域のリアル・タイム検出に成功した。さらに、低酸素に曝露されたGSCの遺伝子発現解析を行い、1%の酸素で生存するGSCの制御因子の候補を絞り込んだ。浮かび上がった因子については機能解析を予定している。
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