研究課題
IVE(In vivo electroporation)を用いたマウス脳への直接遺伝子導入によるマウス GBM(glioblastoma multiforme)モデルの構築 ― 前年度、構築したpiggyBac system発現ベクターを用いてIVE法にて新生児マウス側脳室NSCsにH-RAS V12 cDNAおよびInk4a/Arf shRNAを導入し、経過観察により腫瘍形成能や病理像について評価を行ったところ、これまでに構築してきたex vivoモデル同様に脳腫瘍形成を確認することができ、形成された脳腫瘍は病理学的所見よりヒトGBMと似た特徴を示した。Ex vivoモデルと異なった点として強いリンパ球浸潤が観察された。本年度は腫瘍形成する割合を100%にすることを目標にインジェクションの条件について検討し、形成された腫瘍について病理学的解析に加えて免疫組織化学を用いた詳細な解析を行った。具体的には、新生児脳室に発現ベクターを導入する際の溶液量としては1-2ulが妥当であることから、まず最適導入量を決定するために発現ベクター濃度(1~5mg/ml)の検討を行った。高濃度の発現ベクター導入の方が遺伝子発現量は高くなるが、核酸の粘性も高くなり脳室内の脳脊髄液がうまく循環しないためか脳の形成異常が見られ、腫瘍形成を確認できない個体も多数あった。形成された腫瘍について、増殖マーカーであるKi67に対する抗体で蛍光免疫組織化学を行ったところ、導入したH-RAS V12が発現している細胞でKi67が陽性であった。また、GBMマーカーと考えられているNestin(未分化マーカー)とGfap(アストロサイトマーカー)についても確認したところ、それぞれの陽性細胞が混在する不均質な腫瘍であることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、これまでに申請者らが構築してきた細胞移植によるマウスGBMモデルを発展させ、IVEを用いてマウス脳に直接遺伝子を導入することで、より臨床的で汎用性が高い発がんモデルの開発を目的としている。前年度に成功した腫瘍形成の効率を高めるためにIVEで新生児マウス脳内に直接導入する遺伝子濃度の条件検討を行ったところ、高濃度の遺伝子導入によりタンパク質高発現を確認することはできたが、脳の形成異常が要因か腫瘍形成効率を高めることはできなかった。発現ベクターの改変も含め、インジェクションの最適条件について引き続き今後も要検討である。蛍光免疫組織化学の結果から、マウス脳への直接遺伝子導入により増殖性でヒトGBMに酷似した不均質な腫瘍が形成されていることが分かった。Ex vivoモデルではH-RAS V12導入によりこのような不均質な腫瘍が形成されることは無かったことから、IVEを用いたことによってより臨床レベルに近い脳腫瘍モデルを開発できているのではないかと考えている。
培養細胞への遺伝子導入に近い感覚でマウス脳に遺伝子を導入できていることから、表現型としての腫瘍形成の効率を100%にすることを目標にインジェクションの条件について検討を行う。これまでは代表的ながん遺伝子であるH-RAS V12を用いていたが、TCGA(The Cancer Genome Atlas)データベースより明らかになっているヒトGBMで遺伝子異常が見られるがん遺伝子の導入による腫瘍形成能についても検討を行う。形成された腫瘍について蛍光免疫組織化学を用いた詳細な解析を行い、より臨床的な要素を再現し得る発がんモデルの開発を目指す。
当初、平成29年度計画では、『In vivoエレクトロポレーションを用いた新規マウス脳腫瘍モデルの開発』を行うにあたり、腫瘍形成の効率を高めるための条件検討として十分なマウス個体を処置する予定であった。しかし、所属研究室が保有するマウス実験施設を閉鎖することとなり、共同利用の動物実験施設への移設ならびに規模を縮小する必要があり、計画通りの実験を行うことができなかった。最終年度にあたる平成30年度では本研究課題遂行のための方策を進め使用計画を立てたいと考えている。
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Biochem Biophys Res Commun
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