研究課題
これまでにES細胞に発現している転写因子Zfp57が、種々のがん組織におけて過剰発現しており、また腫瘍形成能、細胞がん化能を持つ新規のがん遺伝子として見出してきた。本研究はこの発見をさらに発展させ、がんの特徴である「腫瘍形成」「転移」「loss of imprinting」におけるZfp57遺伝子の機能を分子生物学的に解明することを目的とした。昨年度はインプリント遺伝子Peg3などをZfp57の下流分子の候補遺伝子として同定した。またZfp57が腫瘍形成だけでなく、がん細胞の転移においても重要な役割を果たしている可能性を示唆する結果を得た。本年度はまずいくつかのZfp57の下流分子候補遺伝子についての解析を行った。方法としては、マウスES細胞において下流分子候補遺伝子の過剰発現やノックダウンを行い、ES細胞の足場非依存性増殖への影響の有無を調べた。その結果、Peg3やSnrpnの過剰発現によってES細胞の足場非依存性増殖が抑制されることがわかった。Zfp57はこれらの遺伝子の発現を抑制していることから、この結果はZfp57がインプリント遺伝子であるPeg3やSnrpnの発現を抑制することによってES細胞の足場非依存性増殖を促進していることを示唆している。Zfp57の転移への関与に関しては、これまで調べたHT1080細胞、HT29細胞に加えてHCT116細胞の転移も促進することを見出した(投稿中)。これとは別にZfp57と同様にES細胞やヒト線維肉腫株で発現が高いPDGF-Cが、ES細胞やヒト線維肉腫株の増殖において重要な役割を果たしていることも見出した(Kinjo et al. Cell. Mol. Biol. Lett. 23, 8 (2018))。
2: おおむね順調に進展している
残念ながらZfp57の結合分子の探索はうまくいっていないが、インプリント遺伝子Peg3とSnrpnをZfp57の下流遺伝子として見出したのは大きな進歩である。最終年度にZfp57による細胞がん化におけるこれらの分子の役割を明らかにできれば、当初の目的であるZfp57による細胞がん化の分子機構の一端が明らかにできることから、研究はおおむね予定通りに進んでいると思われる。
最終年度は、Zfp57の結合分子の探索はあきらめ、本年度に見出した2つの下流分子Peg3とSnrpnの解析に絞って研究を進めていく。具体的には、これらの分子の腫瘍形成や細胞がん化への関与の有無を調べて、Zfp57による腫瘍形成促進機構を調べていく。またZfp57のがん転移への関与も解析を進めていく予定である。これらの結果をもとにZfp57による細胞がん化の分子機構を明らかにしていく。
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Cellular & Molecular Biology Letters
巻: 23 ページ: e8
10.1186/s11658-018-0075-3
http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/kyodo_kenkyu_kensyu/k4.html