研究課題
これまでにES細胞に発現している転写因子Zfp57が、種々のがん組織におけて過剰発現している新規のがん遺伝子として見出してきた。本研究はこの発見をさらに発展させ、がんの特徴である「腫瘍形成」「転移」「loss of imprinting」におけるZfp57遺伝子の機能を分子生物学的に解明することを目的とした。昨年度はZfp57がインプリント遺伝子であるPeg3やSnrpnの発現を抑制することによってES細胞の足場非依存性増殖を促進している可能性を見出した。またZfp57が腫瘍形成だけでなく、がん細胞の転移においても重要な役割を果たしている可能性を示唆する結果を得た。そこで本年度は転移へのZfp57の関与を明らかにするために、まずマウスに大腸がん由来HT29 株やHCT116株を移植する肝臓転移のモデル実験を行い、 Zfp57の過剰発現が転移を促進することを見出した。さらに、ヒトの臨床検体を用いてZfp57の発現量を解析した結果、肝臓転移を起こした場合には起こさない場合よりも頻繁に原発巣におけるZfp57の過剰発現が認められること、Zfp57過剰発現は肝臓転移だけではなくリンパ転移にも相関が認められること、Zfp57の発現量が転移関連分子であるNanogの発現量と相関すること、さらにはZfp57の過剰発現が大腸がん患者の生存率を下げることを見出した。これらの結果から、Zfp57が大腸がんの転移において重要な役割を果たしていることが明らかとなった(Shouji et al. J. Surg. Res. 237, 22-29 (2019))。
3: やや遅れている
がんの転移に関する解析は予定通りに終了することができた。一方で、昨年度に見出したZfp57下流分子Peg3とSnrpnについては、所属研究室の新研究棟への引越しにより、実験を中断せざるを得なかったため、解析を終えることができなかった。そのために計画の延長申請を行った。
来年度には今年度に断念した2つの下流分子Peg3とSnrpnの解析を進めていく。具体的には、これらの分子の腫瘍形成や細胞がん化への関与の有無を調べて、Zfp57による腫瘍形成促進機構を調べていく。これらの結果をもとにZfp57による細胞がん化の分子機構を明らかにしていく。
所属研究室の新研究棟への引越しにより、2018年度の後半は長期に渡って実験を行えなかったために次年度使用額が生じた。今年度に断念した2つの下流分子Peg3とSnrpnの解析を進めるために使用する予定である。
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Journal of Surgical Research
巻: 237 ページ: 22-29
10.1016/j.jss.2018.11.014
https://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/kyodo_kenkyu_kensyu/