研究課題
「IV期肺がんにおいて治癒は見込めない」と考えられている一方で、非常にまれながら臨床的治癒に近いIV期症例が存在する。そのような症例を体系立てて集積し、その臨床的特徴とゲノム解析等で同定される分子生物学的特徴を比較検討した試みは無い。本研究の目的は、化学療法が著効し臨床的治癒に近い経過を示したIV期肺がんまたは中皮腫症例の全貌を検討し、IV期肺がんを臨床的治癒に結びつける要因を明らかにし、肺がんのさらなる個別化医療実現へ向けた基盤の確立を目指すことである。本研究では、以下の検討をおこなう。(1) IV期肺がん・中皮腫長期寛解維持症例から採取した検体を用いて全エクソーム解析にて遺伝子変化を網羅的に検索する。それらの臨床的特徴 (組織型、治療反応性等)との統合解析を行い、IV期肺がん・中皮腫の治癒に関与する分子プロファイル・マーカーを探索的に検討する。(2)共同研究施設における症例についても同様の検討を行う。(3) 同定した治癒に関与する遺伝子変異等の分子プロファイル及びマーカーを細胞株モデルにおいて検討し、創薬へ向けての橋渡しとなる前臨床データを取得する。これまでに化学療法が著効し、無治療で無再発が2年間以上維持できている検討候補症例を4例同定した。進行肺がんの長期生存と治癒実現に向けて、平成30年度の研究においてがん免疫抑制機構についての成果が得られた (Kubo, Cancer Invest, 2019)。また、本研究と同じがん遺伝子パネルを用いた次世代シーケンス解析における検出能について従来法との比較検討を行った (論文投稿中)。
3: やや遅れている
本研究対象症例の選択基準は、1) 病理学的確定診断のあるIV期肺がんまたは中皮腫、2) 年齢20歳以上、3) 化学療法が奏効し(完全寛解CRまたは部分寛解PR)、最終治療終了後2年以上無治療で寛解が維持されていること、4) DNA抽出が可能な治療前の腫瘍検体があること、5) 末梢静脈血の提供が可能であること、6) 研究参加への書面によるインフォームドコンセント、である。適格症例は過去10年間で自験4例が同定され、詳細な臨床情報を得ているが、症例登録に至っておらず解析が開始できていないことが遅れの要因である。一方平成30年度の進展としては以下の2点があげられる。108例の非小細胞肺癌 (NSCLC) 切除検体を用いた解析において制御性T細胞の活性化が再発・予後におよぼす影響を明らかにした (Kubo, Cancer Invest, 2019)。また、本研究課題と同じがん遺伝子パネルを用いた次世代シーケンス (NGS) 解析における検出能について従来法との比較検討を行った。876例のNSCLC治癒切除症例の腫瘍組織を用いてEGFRおよびKRAS遺伝子変異検出についてNGSとリアルタイムPCR法の詳細な比較検討を行った (論文投稿中)。令和元年度は、自験例4例の研究参加同意を得て登録を行い、次世代シーケンスを用いた網羅的遺伝子解析、全エクソーム解析を実施する。それらの臨床的特徴 (組織型、治療反応性等)との統合解析を行い、IV期肺がん・中皮腫の治癒に関与する分子プロファイル・マーカーを探索的に検討する。
令和元年度に以下の検討を行う。(1) IV期肺がん・中皮腫長期寛解維持症例から採取した検体を用いて全エクソーム解析にて遺伝子変化を網羅的に検索する。それらの臨床的特徴 (組織型、治療反応性等)との統合解析を行い、IV期肺がん・中皮腫の治癒に関与する分子プロファイル・マーカーを探索的に検討する。(2) 極めてまれな症例集団となるため、分担/連携研究者の所属する共同研究施設における症例についても同様の検討を実施し、さらなるデータ取得を行う。(3) 同定した治癒に関与する遺伝子変異等の分子プロファイル及びマーカーは新規の治療標的となる可能性がある。これらを細胞株モデルにおいて検討し、創薬へ向けての橋渡しとなる前臨床データを取得する。自験例4例における次世代シーケンスを用いた網羅的遺伝子解析を実施する。パラフィン包埋腫瘍組織標本からDNA抽出を行い、次世代シーケンシングを実施する。 (1) がん関連72遺伝子からなるホットスポット解析を行うとともに、遺伝子増幅解析(リアルタイムPCR) および蛋白発現解析(免疫染色)を実施する。(2) 次世代シーケンスによる全エクソーム解析を行う。また、各症例から末梢静脈血を採取し、抽出したDNAをがん組織に対する正常対照として用いる。 (3) 自験例4例の臨床情報および網羅的遺伝子解析の統合解析。体細胞変異の遺伝情報解析において、それぞれの化学療法効果との関連、予後因子、がんの組織型等の臨床病理学的因子について探索的に検討を行う。また、本学とともに共同研究施設を通じて新規症例を探索し、症例の追加検討を行う。同定したゲノム異常の新規治療標的としての前臨床評価を行う。以上の結果をとりまとめ、学会および論文発表を行う。
本研究で、自験例で化学療法が著効し無治療で無再発が2年間以上維持できている本研究候補症例が4例同定された。しかしながら本研究の主体である網羅的遺伝子解析実施に至っていないことが予算使用遅延の主要因である。遺伝子解析実施に至らなかったため、平成30年度予算の大半を占める物品費の多くが未使用となっている。物品に関わる経費はすべて消耗品であり、主に次世代シーケンス関連試薬である。情報収集・情報交換等のための学会、打合せ等会議に必要な旅費等はほぼ予定通り使用されている。本研究計画は本学倫理委員会による承認済みであり、以下へ進んでいく。(1) 文書同意取得と症例登録、(2) 症例から採取した検体を用いて全エクソーム解析にて遺伝子変化を網羅的に検索、(3)臨床的特徴との統合解析を経て分子プロファイル・マーカーを検討、(4) 同定された因子について細胞株モデルにおいて検討。いずれも貴重な症例のため症例報告を含む論文化も予定している。令和元年度に使用となる予算は、次世代シーケンス関連試薬を含む消耗品等の物品費、論文作成に関する費用、情報収集・情報交換等のための学会、打合せ等会議に必要な旅費等で使用される予定である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
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