研究課題/領域番号 |
16K07130
|
研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
主藤 朝也 久留米大学, 医学部, 助教 (50309803)
|
研究分担者 |
山田 亮 久留米大学, 付置研究所, 教授 (50158177)
三森 功士 九州大学, 大学病院, 教授 (50322748)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | TIL / T cell subset |
研究実績の概要 |
H28年度は、先ず食道扁平上皮癌癌切除症例における腫瘍浸潤リンパ球(Tumor Infiltrating Lymphocyte: TIL)の臨床病理学的な重要性についての検証を行った。食道癌切除症例332例において、病変部のTILについてTIL working groupが提唱している解析法を用いて評価し、TIL陽性群とTIL陰性群における臨床病理学的因子とcancer specific survival (CSS), overall survival(OS)の比較を行った。臨床病理学的因子とTILとの間に相関を示す因子は認められなかったが、TIL陽性群において有意にCSS, OSが良好であり、単変量、多変量解析においてTILが最も予後に寄与する因子となることが示された。以上からTILの局所病変部での存在が重要性が示された。本結果はAnn Surg Oncol. 2017 Feb 3. doi: 10.1245/s10434-017-5796-4 に掲載された。 現在は、Tリンパ球のどのサブセット(helper T細胞、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞、メモリーT細胞)が食道癌の予後に関与し、また腫瘍のもつどの因子がこのサブセットの誘導に関わっているかに関して解析を施行している最中である。解析の手法として、先ず病変部局所での免疫染色(CD3, CD4, CD8, CD45RO, Foxp3, PDL1, HLA)、と病変部より抽出されたRNAを用いてreal time PCRを行い、病変部でのサブセットの偏りがあるかどうか、症例間でのサブセットの差があるかどうかについて解析し、病変部においてもっとも病理学的因子や予後に関わるサブセットの解明を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Tリンパ球サブセットの解析は現在30症例分が終了している。結果としてはTリンパ球のサブセットは腫瘍局所で特徴のある偏りは示さなかった。そして、それぞれのサブセットの発現はそれぞれ強い相関が認められた。そこで症例間での発現をクラスタリング解析したところ、病変部に免疫細胞の浸潤が乏しい症例群(group1)、病変部の中心および周囲でCD3, CD8, CD45ROを中心に全体的に免疫細胞浸潤を高度に示す症例群(group2)およびFOXP3発現が比較的発現の高い症例群(group3)に分けることが出来た。PDL1, およびHLAの発現をこのgruop間で解析したところ、gruop1はいずれも発現が低く、group2ではいずれも発現が高く、group3ではPDL1は高いがHLAの発現は低い傾向にあった。つまり、食道癌では大きく分けて免疫細胞の関与が強い腫瘍と強くない腫瘍(group1)の2つがあることが明らかとなった。さらに、免疫細胞の関連が強い腫瘍は、抗腫瘍効果が高い免疫細胞が多く関与している腫瘍(group2)と抗腫瘍効果が高い免疫細胞が少ない腫瘍(gruop3)があることを示唆した。そしてgroup2とgroup3に相違には腫瘍抗原の提示に関わるHLAの発現差が関与していることも示唆された。group1, group2, group3において無再発生存期間を比較したところgroup1がもっとも予後が不良であり、group2がもっとも予後が良好な傾向にあった。 T細胞のT cell receptor (TCR) レパートリーに関しては 3症例について解析が行われた。1例ではTCRのレパートリーは消失し、ほぼ単独のレパートリーの存在が認められた。もう1例についてはTCRのレパートリーは複数認められるも非常に少なかった。3例目はTCRのレパートリーは比較的保たれていた。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの進行状況は当初の研究計画の予定にそって進捗している。問題点としては、サブセット解析がまだ30症例と少ないこと、傾向は見られるものの有意差までは見いだせていない点にある。T細胞サブセットについては、研究開始当初から比較してさらに細分化されたサブセットが提唱されており、全てのサブセットを網羅するには非常に困難が予想される。 そのため我々は本研究の進行状況から、これらのT細胞サブセットを単体ではなくまとまったグループ(抗腫瘍T細胞サブセット、腫瘍推進性T細胞サブセット、腫瘍免疫無関与性T細胞サブセット)に分けて解析をすすめることを検討している。これらのサブセットにグループ分けを行うマーカーとして、CD3,CD8, CD45RO, Foxp3を使用し、免疫染色もしくはreal time PCRを用いてグルーピングを行う予定である。グルーピングを行った後、とくに抗腫瘍T細胞サブセットの多い症例でTCRレパートリー解析を行い、抗腫瘍効果をもつと考えられるTCRレパートリーの発見を試みる。 また、現在までの解析で免疫細胞がほぼ関与しない症例が半数程度存在することも明らかとなった。これらの症例と免疫細胞が関与する症例との間で、腫瘍のどのような遺伝子学的背景因子がその相違を明らかにするため、追加でマイクロアレイ解析を行うことを予定している。マイクロアレイの結果を元に、腫瘍において免疫細胞の関与を賦活化する可能性があるか、あるいは活性化した免疫細胞CART細胞の局所への導入の可能性についても解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの研究の進行度合いであるが、引き続き解析を行う予定であったフローサイトメトリーの試薬の発注が当初よりも遅延したこと、それから購入予定であった抗体の製造過程で蛍光色素の減弱が起こる可能性があるとの不備が生じたため、試薬の納入も遅れたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
遅延した分に関して計画どおりの試薬購入とフローサイトメトリー、セルソーターによる解析を予定している。また、研究の進行中に判明した腫瘍での免疫細胞不関与の症例が半数程度存在することから、当初計画には想定していなかった腫瘍におけるマイクロアレイ解析を費用に余地があれば行う予定である。
|