研究実績の概要 |
前年度に計画していたTリンパ球のサブセットの解析から開始。現在まで45例の食道癌切除症例の切除病変切片においてCD3,CD4, CD8, CD45RO, Foxp3, PD-L1, HLAの免疫染色(IHC)を施行。上記マーカーのうちCD3, CD8, CD45RO, Foxp3の組織発現に関して相互関係を見るためにクラスタリング解析を行い5グループにクラスタリングされた。以上から食道癌の局所での免疫細胞特にT細胞のサブセットパターンの観点から、食道癌は大きく5グループに分類できることが明らかとなった。 5グループの概要としてグループ1、グループ2は特に免疫細胞の関与に乏しいグループであり、グループ3, 4, 5は免疫細胞の関与が著しいグループであった。グループ1,2とグループ3,4,5のサブセット間では無再発生存に関する予後に差を認め、グループ3,4,5が有意に予後良好であることも明らかとなり、tumor infiltrating lymphocyte(TIL)で我々が報告した免疫細胞の関与がある症例が予後良好であることを裏打ちする結果となった。 グループそれぞれの特徴としてグループ1は真に免疫細胞の反応が見られないタイプ、グループ2では制御性T細胞の関与が認められるタイプ、グループ3は、ほぼ全T細胞サブセットが豊富に見られるタイプ、グループ4は全サブセットが多く見られる中、制御性T細胞サブセットの割合が多いタイプ、グループ5は全サブセット中メモリーT細胞サブセットの割合が多いタイプであった。 現在グループ1,2とグループ3,4,5間でT細胞レセプターに対するadaptor ligation PCR及び次世代シークエンサーによる統合解析を行い、グループ1,2、グループ3,4,5間において共通のレセプターレパートリーが認められるかを解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに6症例に施行したTCRの次世代シークエンサーの解析ではTCRα鎖についてはサブセットの間で共通した有意な組み合わせは認められないが、組み合わせランキングでは数例追加することで有意差がでる可能性がでてきたため、症例追加を行う。 上記解析で得られたサブセット間で共通のTCRα,β鎖レパートリー探索を行い、グループ1,2に共通のレパートリー、あるいはグループ3,4,5に共通のTCRをレパートリーを明らかにする。この内グループ1,2に共通するTCRのレパートリーは、本研究で現在までに明らかにしたサブセット解析からは、腫瘍内において免疫反応を妨げる働きをする可能性が考えられる。逆にグループ3,4,5に共通のTCRレパートリーは、より免疫反応を刺激する働きをすると考えられる。この結果を元に、将来的に腫瘍局所の免疫細胞のサブセット、TCRレパートリーの組み合わせから腫瘍に対する最適な治療戦略への新たな手がかりを得られる可能性がある。 また、本研究より腫瘍からのT細胞抽出、ソーティングを実行に移す予定である。現在末梢血におけるT細胞のFACSを施行し、上記サブセットへの分離を試みているが、FACSに関して特に大きな問題は認められていない。同手技を確立し次第、摘出腫瘍からのコラゲナーゼ処理による腫瘍細胞とT細胞の分離を行う予定である。当大学免疫学教室においてマウスの正常小腸からのT細胞分離を行なっており、同プロトコールに従い腫瘍組織からのT細胞の分離、保存を行う。今後、腫瘍細胞とT細胞との直接の相互作用解析に用いる予定である。
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