研究実績の概要 |
胞巣状軟部肉腫(ASPS)は、初診時に既に転移がしばしば観察される若年者の肉腫である。ASPSでは全症例でASPL-TFE3融合遺伝子が認められ、これがドミナントドライバーとして機能すると考えられている。 本研究課題により、ex vivoシステムを応用してASPSモデルマウスを樹立した。ASPSモデルマウスはヒトASPSと同様に、原発巣における血管内皮(CD31+, CD34+)と血管周皮(SMA+, PDGFR+)に裏打ちされる成熟した血管構築が観察された。さらに、ヒトASPSの特徴である胞巣状構造や血管網形成と、肺への高頻度の転移も忠実に反映していた。転移の際には、腫瘍細胞は血管周皮細胞に被われた胞巣状構造のまま血管内を移動していて、このことが宿主免疫からの回避法である可能性が考えられた。この現象はヒトASPSでも観察された。また腫瘍細胞が血管内に侵入する際、融合遺伝子ASPL-TFE3の標的であるGPNMBの発現が不可欠であることも見出した。遺伝子発現解析からは、オートファジーやライソソーム経路の遺伝子群の顕著な発現亢進が認められ、腫瘍細胞内に多量のライソソームの集積が観察された。 さらに、ASPL融合蛋白の造腫瘍能には、MIT/TFEファミリーのTFE3とTFEBで共通し、MITFやTFECには存在しない機能領域が関わっていることが示唆された。そこでASPL-TFE3の機能領域を特定するために、9つの欠失変異体を用いてin vivo造腫瘍試験を行ったところ、2箇所の欠失変異体で腫瘍形成が消失したことから、この領域がoncogenicドメインとして機能していることが示唆された。この領域には特定のSH3蛋白質が結合すると考えられる。 今後は、ASPL-TFE3が機能し得るASPSのエピゲノムランドスケープを明らかにすることで、ASPL-TFE3の転写制御機構の全貌に迫りたい。
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