タンパク質シトルリン化酵素(PAD)は、タンパク質中のアルギニン残基をシトルリン残基へと変換するタンパク質修飾酵素である。PADファミリーのひとつであるPAD4は、コアヒストンをシトルリン化し遺伝子発現制御に関与する。近年、造血多能性細胞に発現するPAD4は、ヒストンシトルリン化を介して癌遺伝子MYCを抑制し、細胞増殖を制御することを見いだした。本研究では、PAD4の細胞分化や増殖への関与を明らかにするために、マウス白血病細胞であるM1細胞を利用した。M1細胞は、インターロイキン-6(IL-6)を加え培養すると細胞死及びマクロファージへの細胞分化を誘導する。最初に、マウスPAD4の酵素活性欠失変異体(D473A)cDNAを作製し、レンチウイルスを用いて、GFP、PAD4、D473AをM1細胞に導入し安定発現細胞を樹立した。これら細胞におけるc-Mycの発現量や細胞増殖速度はほぼ同程度であった。しかし、IL-6で処理すると、PAD4発現細胞では、D473A発現細胞に比べて細胞死の誘導が有意に上昇した。またIL-6処理すると、PAD4発現細胞でD473A発現細胞に比べてc-Mycの発現がより強く抑制されることが分かった。次に、これら細胞株を用いてマイクロアレイ解析を行い、PAD4が制御する遺伝子を網羅的に調べた。PAD4発現細胞とGFP発現細胞を変動遺伝子数で比較すると、未処理細胞では増加する数と減少する数はほぼ同じであったが、IL-6処理すると減少遺伝子の数がPAD4発現細胞では2倍程度多かった。また、IL-6処理時にPAD4発現細胞で抑制される遺伝子群には、BCLファミリーなどのアポトーシス抑制因子が含まれることが分かった。今回の結果から、M1細胞においてIL-6刺激によりPAD4が活性化し、細胞死誘導を促進することが示唆された。PAD4の活性化やそれによる細胞死誘導の分子機構の解明は今後の課題である。
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