前年度までの成果として、①肺腺がん細胞株や肺腺がん組織中のがん細胞の一部に一次線毛が発現すること、②肺腺がん細胞株に上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)を誘導すると一次線毛の発現が促進することを見出し、さらに、③一次線毛発現制御分子(タンパク)Xを同定した。今年度は、肺腺がん細胞における一次線毛の役割と、分子Xの機能解析に着手した。 1. 肺腺がん細胞における一次線毛と細胞増殖の関係 元来、一次線毛は正常組織中の増殖が停止した細胞の大半に発現することがよく知られている。その点を踏まえ、肺腺がん細胞株を増殖マーカーKi-67と一次線毛マーカーARL13Bで二重染色したところ、一次線毛陽性細胞はKi-67陽性細胞よりも陰性細胞の中により多く存在した。 2. 一次線毛発現制御分子Xの機能解析 shRNAを用いて遺伝子Xのノックダウンを試みたが、安定株を樹立することができなかった。そこで、近年盛んに使用されるようになっているCRISPR-Cas9を用いてノックアウト細胞の作成、さらに並行してコンディショナルノックアウトマウスの作出も進めている。本研究課題の期間終了後、これらの細胞とマウスを用いて分子Xの機能を細胞レベルと生体レベルで解析する予定である。一方、分子Xと相互作用するタンパクを同定するため、FLAGタグを付加した分子Xを肺腺がん細胞株に強制発現し、FLAGの免疫沈降で共沈するタンパクを質量分析で同定した。その機能解析も今後継続予定である。
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