研究課題/領域番号 |
16K07139
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
藤下 晃章 愛知県がんセンター(研究所), 分子病態学部, 主任研究員 (50511870)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 癌 / 遺伝子 / 薬理学 |
研究実績の概要 |
mTOR阻害薬抵抗性獲得におけるがん微小環境の役割を解明するために、浸潤性大腸がんモデルマウスであるcis-Apc/Smad4マウスにmTORキナーゼ阻害薬AZD8055を投与することで発生したmTOR阻害薬抵抗性腸管腺がんのトランスクリプトーム解析を行った。 具体的にはvehicle投与群(コントロール)及びAZD8055投与群(mTOR阻害薬抵抗性)のcis-Apc/Smad4マウス腺がん組織からmRNAを抽出後、マイクロアレイ解析およびGSEA解析を行った。mTOR阻害薬抵抗性腸管腺がん組織はコントロール群と比較して、特定遺伝子群の発現増大が確認された。特にコントロールの腺がん組織と比較し、mTOR阻害薬抵抗性腸管腺がん組織で二倍以上発現が増大していた遺伝子はおよそ500種類、二倍以上低下していた遺伝子は400種類見つかった。二倍以上発現が増大している分子に対し、小腸及び大腸の腺がん組織を用いてRT-PCRにより再確認後、レーザーマイクロダイゼクションにより浸潤部の腺がん細胞と間質細胞を分離採取した。腺がん上皮細胞及び間質細胞からmRNAを回収し、mTOR阻害薬抵抗性関連遺伝子が発現している細胞の同定作業を行った。 またGSEA解析から代謝経路に関与する遺伝子群、およびインターフェロンに関与する遺伝子群がmTOR阻害薬抵抗性腸管腺がんで大きく変動しており、タンパクレベルで変動を検証するための準備を行った。具体的には代謝に関連する遺伝子群が変動していることから、メタボローム解析のためのサンプル回収を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に計画したcis-Apc/Smad4マウスのmTOR阻害薬抵抗性腸管腺がん組織における抵抗性に関与する分子の同定と検証について、膨大な数であったがマイクロアレイ解析により挙った候補遺伝子の絞り込みを進めており、現在マイクロダイゼクションにより採取したVehicle及びAZD8055を投与したcis-Apc/Smad4マウスの腺がん上皮細胞及び周辺間質細胞からmRNA抽出し発現解析を行っている。この作業により、発現が変動している遺伝子ががん細胞由来か、または間質細胞由来かを同定することが可能である。またmTOR阻害薬抵抗性腸管腺がんで発現が増大または低下している遺伝子をクローニングし、大腸がん細胞株に導入することで、mTOR阻害薬抵抗性獲得におけるこれら遺伝子の役割を検証している。同時に抵抗性関連遺伝子群の発現を調節する分子機構の解析が進められている。 さらにGSEA解析結果から代謝関連遺伝子の変動がmTOR阻害薬抵抗性腸管腺がん組織で認められており、メタボローム解析を現在行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行しているマイクロダイゼクションにより採取したcis-Apc/Smad4マウスの腺がん上皮細胞及び周辺間質細胞を用いて抵抗性関連遺伝子の発現解析を行ったあと以下の方策により、mTOR阻害薬抵抗性の原因となる分子を培養細胞レベルと生体レベルで同定作業を行う。 培養細胞レベルで関連遺伝子の過剰発現及びノックダウンを行い、mTOR阻害薬処置による影響を検証する。次にcis-Apc/Smad4マウスを用いて、培養細胞レベルで同定された遺伝子産物を抑制する抗体や関連するシグナル伝達経路を抑制する化合物をmTOR阻害薬AZD8055と併用投与し、mTOR阻害薬抵抗性腸管腺がん形成に対する効果を検証する。具体的には腺がんの浸潤、間質増生、生存期間に与える影響を評価する。 同様にメタボローム解析で挙った代謝経路に対する阻害薬を併用し、上述と同様にmTOR抵抗性腸管腺がん形成に対する効果を検証する。また抵抗性獲得における分子機構の詳細を明らかにする。特に変動が認められた遺伝子群の発現調節をするシグナル経路を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
財団(武田科学振興財団と島原科学財団)からの助成金が合計三百万円あったため本研究費の一部を29年度に繰り越し、必要な物品(餌、試薬)に補填する。
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次年度使用額の使用計画 |
少額であるため研究計画に変更はない。
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