mTOR阻害薬抵抗性獲得におけるがん微小環境の役割を解明するために、浸潤性大腸がんモデルマウスであるcis-Apc/Smad4マウスにmTORキナーゼ阻害薬AZD8055を投与することで発生したmTOR阻害薬抵抗性腸管腺がんのメタボローム解析を行い、ヒスタミンがmTOR阻害薬抵抗性に関与することをこれまでに見出している。このヒスタミン産生細胞を同定するため質量顕微鏡を用いてヒスタミンの局在を検証したところ、腸がん浸潤部の腫瘍細胞ではなく間質細胞で高濃度のヒスタミンが検出された。この領域には多数のマクロファージが観察されており、mTOR阻害薬の影響によりヒスタミンをde novo合成するように変化した、またはヒスタミンを外部から取り込んだマクロファージが集積している可能性がある。これらの結果は分子標的薬抵抗性大腸がんの微小環境において、がん細胞だけでなく、周辺の間質細胞でも、分子標的阻害によるフィードバック効果が働くだけでなく、代謝状態を変化させることでも薬剤抵抗性に関与することを強く示唆している。 またmTOR阻害薬抵抗性腸管腺がんのプロテオミクス解析を行いメタボローム解析で変動していた代謝産物に関わる酵素の発現について検証作業を行っている。現在、特定のアミノ酸の組織中の濃度がmTOR阻害薬により上昇しており、関連する代謝関連酵素の発現の減少が認められている。今後、mTOR阻害薬抵抗性腸管腺がんの組織中で増加するヒスタミン以外の特定アミノ酸役割について検証していきたい。
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