研究課題/領域番号 |
16K07142
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
武藤 倫弘 国立研究開発法人国立がん研究センター, 社会と健康研究センター, 室長 (30392335)
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研究分担者 |
藤井 元 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (90321877)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | LDL受容体 / beta-cateninシグナル / がん予防 / エンドサイトーシス |
研究実績の概要 |
疫学的調査により脂質異常症と大腸がん発症との間に関連性があることが示唆されているが、両者を繋ぐ分子メカニズムについては、未だほとんど明らかになっていない。申請者らはこれまでに大腸腫瘍部位で強発現している脂質受容体LDLRに注目し、LDLR欠損Minマウスに於いて腸ポリープ生成が抑制されること、そしてbeta-catenin核移行が阻害されるという結果を得ている。また大腸がん培養細胞でLDLR分子をsiRNA処理によりノックダウンすると、Tcf/LEF転写活性が抑制されることも見出した。そこで本研究では、LDLR がbeta-cateninシグナル経路に与える影響の分子メカニズムを明らかにする事を第一義の目的とした。H28年度ではbeta-catenin遺伝子に変異があるSW48細胞、及びAPC遺伝子に変異があるHCT15細胞にLDLR-siRNAを導入し、ノックダウンによりLDLR発現量を減少させた。LDLR蛋白質代謝回転の時間を考慮し、経時的に細胞質分画と核分画に分けながら抽出を行い、その後に各分画におけるbeta-cateninの量的な変化をウェスタンブロットでの化学発光量測定により測定したところ、動物実験同様にbeta-catenin核移行減少および、Tcf/LEF転写活性の減弱が認められた。次に、kinase 機能活性化に関与しているCK1alpha-Ser9及びGSK3beta-Thr321という部位の部位特異的リン酸化特異抗体と、各タンパク質通常抗体とを用いて、通常時、及びLDLR-siRNA処理時のそれぞれの酵素のリン酸化状態を測定し、その結果を比較・検討した。LDLR発現量の減少時には、beta-cateninリン酸化を引き起こすためのCK1alpha及びGSK3betaの双方のリン酸化が減少(kinaseとして活性化)していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の達成目標(マイルストーン)は(1) LDLR分子ノックダウンによるbeta-cateninの核内移行量変動とbeta-catenin修飾変化の解析 (2) LDLR全長分子の強制発現時におけるbeta-cateninシグナル経路変動の解析の課題に中心的に取り組み、LDLR分子の発現量を人為的に変動させた時のbeta-cateninの核内移行量、beta-cateninの修飾系、Tcf/LEF転写活性を詳細に解析する事で、LDLR分子を起点としてbeta-catenin シグナル経路へと連なる分子機構を明らかにすることであった。以下に各項目の達成度と課題(遅れている理由)を述べる。 (1)(1)に関しては、計画通りに研究を進めることができた。LDLR分子が細胞側へのシグナル起点となっている新たなbeta-cateninシグナル経路の調節につながる分子メカニズム機構解明、そしてそこに必要なkinaseの挙動などを含めたシグナルの伝達系解明、に向けた大きな進歩が得られたものと考えている。しかしながら、これまでの予備的な実験により、LDLR分子はturnover時間が比較的長い事がわかっていたが、用いた細胞におけるLDLR蛋白質代謝回転の時間は思ったよりも長く、1週間単位のタイムコースをとる必要に迫られた。このため、経時的に細胞質分画と核分画に分けながら抽出する作業に至るまでに時間を要したことが主な遅延の理由として考えられた。 (2)LDLR全長分子の強制発現時におけるbeta-cateninシグナル経路変動の解析を行うためのLDLR発現量が低い培養細胞の同定とLDLR分子全長を含むプラスミドの作成を終了したが、最終的な動物実験にかかる時間を考慮するともう少し計画を進めたかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記に示したように、LDLR分子ノックダウンによるbeta-cateninの核内移行量変動とbeta-catenin修飾変化の解析は順調に進んでいるが、これらに於けるリン酸化などの詳しい分子メカニズムをより確定化する必要がる。 平成29年度からはLDLR発現量を人為的に増減させ、その時のbeta-catenin分子やシグナル分子の修飾状態、及びTcf/LEF転写活性解析を通じて、分子メカニズム推測を論理的に行い、その作業仮説に基づいた確認を通じて進めていく。更にLDLR分子のリガンド応答割合の人為的変化時やエンドサイトーシス阻害剤処理時といった細胞生物学的処理を行った時の分子挙動に関しても同様に解析することで、LDLR分子がbeta-catenin シグナル系に与えうる影響とその分子的機構全般について統合的に解明し、3年以内の研究期間の中で有効な化学予防に結びつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの研究計画の達成度は、やや遅れている。しかし、遅れた分「(2)LDLR全長分子の強制発現時におけるbeta-cateninシグナル経路変動の解析」の使用予定額を平成29年度に用いる事により十分に遅れは取り戻せると考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究はLDLR がbeta-cateninシグナル経路に与える影響の分子メカニズムを明らかにすることを目標としており、本年度も並立的な研究費を使用することが推測されるが、進展や検証内容に依って、その使用用途は幾分変動することが予想される。各実験項目遂行に必要な実際の試薬や消耗品の利用度合に応じて、柔軟に経費を使用していく予定である。尚、使用計画において、「設備備品費」、「旅費」、又は「人件費、謝金等」の経費が全体の90%を超えることは無い。使用計画としては、培養関係経費(1,078,832円)を予定している。
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