疫学的調査により脂質異常症と大腸がん発症との関連性が示唆されているが、両者を繋ぐ分子メカニズムは、ほとんど明らかになっていない。申請者らはこれまでに大腸腫瘍部位で強発現している脂質受容体LDLRに注目し、LDLR欠損Minマウスに於いて腸ポリープ生成が抑制されること、そしてβ-catenin核移行が阻害されるという結果を得ている。また大腸がん細胞でLDLRをsiRNA処理によりノックダウンすると、Tcf/LEF転写活性が抑制されることも見出した。そこで本研究では、LDLR がβ-cateninシグナル経路に与える影響の分子メカニズムを明らかにする事を目的とした。H28年度はLDLRをノックダウンさせることで、その分子存在量を減弱させた環境下でのβ-catenin分子の局在別量的変動やその修飾変化を、またリガンドであるLDL添加量を変動させ、受容体-リガンド結合割合を変化させた時のβ-catenin シグナルへの影響、を中心的に解析した。H29年度は、LDLR全長分子の強制発現時におけるβ-cateninシグナル経路変動の解析の課題に取り組み、LDLR siRNA導入によって抑制されたTcf/LEF転写活性が、LDLR遺伝子全長を強制発現させることにより回復した。この結果、純粋にLDLR発現量変動によってTcf/LEF転写活性が変動しうることが示めされた。さらに、クロルプロマジンを用いた検討によりクラスリン依存性のエンドサイトーシスの分子機構がLDLRからβ-cateninへのシグナル経路において寄与していることが示された。H30年度は、クロルプロマジンを用いて、Minマウスにおける腸ポリープ生成への影響について検討し、腸ポリープ生成数の有意な減少と、腸ポリープ部位におけるβ-cateninシグナルの下流で制御される因子のmRNA発現レベルの減少を見出した。
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